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第15話 証言7(特別):オルグレン再訪

 タラン地方へ向かう前に、わたしはもう一度、オルグレンを訪ねた。


 前回の証言で語りきれなかったことがあるように感じていた。あの老魔術師が最後に見せた表情が、まだわたしの中に残っていたからだ。


 魔術師の塔の最上階。オルグレンはわたしの再訪を予期していたようだった。


「もう一度来ると思っていた」


──一つだけ、確認させてください。あなたはカイを追い出したとおっしゃいました。しかし、カイは自ら消えています。追い出したのではなく、消えることを選んだのでは?


「形式的にはそうだろう。だが、本質的には追い出したのだ。あの男が最後の提案を持ってきたとき、わたしが承認していれば、カイは消えなかった。自動化が実装されれば、カイの仕事は仕組みに置き換わり、カイは自由になれた。自由になった上で、この宮廷に残ることもできた」


──自由になった上で、残る。


「そうだ。わたしが拒否したのは、提案だけではない。カイがこの場所に残る可能性を、わたしが潰したのだ」


 オルグレンは窓の外を見た。王都の街並みが夕日に染まっている。


「リーナ殿。わたしは四十年間、魔法の力を信じてきた。魔法こそが世界を動かす力であり、魔法を扱える者がこの国を導くべきだと。それは間違いではなかった。だが、正しくもなかった」


──どういうことですか?


「カイは魔法を使えない。だが、魔法を使う者たちの力を、最大限に引き出す仕組みを作った。一人の天才魔術師より、仕組みによって連携した十人の凡庸な魔術師の方が強い。カイはそれを証明した。わたしが四十年かけてもたどり着けなかった結論に、魔法を使えない人間が——仕組みの力で到達した」


「それを認めることが、わたしにはできなかった。認めれば、わたしの四十年が否定されると思った」


──今は?


「今は——否定されたのではないと理解している。補完されたのだ。わたしの四十年は間違っていなかった。ただ、足りなかっただけだ。足りない部分を埋めたのがカイだった。わたしはそれを受け入れるべきだった」


 オルグレンは杖を手に取り、立ち上がった。そして書棚の奥から、一枚の紙を取り出した。


「これを」


──これは?


「カイが最後に持ってきた提案書だ。通信塔の自動化計画。わたしが却下したものだ。——却下した後も、捨てられなかった」


 わたしは紙を受け取った。カイらしい、数式と簡潔な文章で構成された設計書だった。


「持っていけ。そして、実装しろ。予算はわたしが出す。魔術師の塔の予算を回せば足りる」


──よろしいのですか?


「わたしにできるのは、これくらいだ。四十年の面子と、この国の未来と、どちらが重いかくらいは——今のわたしにもわかる」


 オルグレンはそう言って、再び窓の外に目をやった。


「カイに会ったら、伝えてくれ。——いや、伝えなくていい。わたしが何を言っても、あの男は『わかりました』としか答えないだろう。それよりも」


──それよりも?


「戻って来い、とだけ言ってくれ。言い方は任せる。わたしが言ったとは言わなくていい」


 宮廷魔術師長は、最後まで素直にはなれなかった。

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