第14話 リーナの考察2
すべての証言を終え、手記の解読も終わった。
わたしは調査結果を報告書にまとめる前に、もう一度、事実を整理する。
カイ・ソーマは自ら消えた。それは計画的な行動であり、王国の仕組みを自立させるための最後の手段だった。
しかし、その計画は不完全だった。通信塔の自動化——カイの仕事を仕組みに埋め込むための最後のピースが、オルグレンとヴェルナーの間で握りつぶされたからだ。
結果として、カイの失踪は王国に混乱をもたらした。だが同時に、その混乱こそが、カイの存在を初めて可視化した。
カイがいた頃、誰もカイの仕事を見ていなかった。仕組みが滑らかに回っている限り、回している人間の存在には気づかない。
カイがいなくなって、初めて「何かが止まった」と気づいた。そして「止まった原因がカイだった」と知り、「カイが何をしていたのか」を調べ始めた。
この過程で、各部門は自分たちが依存していた仕組みの全体像を初めて知ることになった。
ガルスは通信連携が個別の調整の積み重ねであることを理解し、部下に引き継ぎを指示した。レンは通信塔の全体設計をカイの手記から読み解き始めた。マーサは物流の経路計算を自前で行う体制を整え始めた。
——仕組みは、カイなしで回り始めている。まだ完全ではない。だが、動き出している。
カイの手記にあった数式。中央ノードを除去した後のネットワークの挙動。短期的な混乱の後、新たな均衡に収束する——その計算は、現実になりつつあった。
カイは正しかった。
ただし、一つだけ、カイの計算にないものがある。
それは、「カイ自身がどこにいるべきか」という問いだ。
カイは王国の仕組みを完璧に設計した。だが、自分自身の居場所は設計しなかった。仕組みが自立した後の自分を、どこにも配置しなかった。
それは設計の欠陥ではない。自分を計算の外に置くことが、カイにとっての最適解だったのだ。
しかし——最適解は、必ずしも正解ではない。
わたしはカイの足取りを追うことにした。
手記の最終頁の数式の中に、アルベルト教授が見落としていた注記があった。座標のようなものだ。教授に確認したところ、それは王国南東部の辺境——タラン地方の、ある村の緯度と経度に一致するという。
数学者は、自分の行き先すら数式で書く。




