第13話 断章5
この仕組みが、私なしで回る日が来たら——
わたしはどこへ行くのだろう。
六年間、わたしはこの国の仕組みを作ることだけを考えてきた。朝起きて、通信塔の状態を確認し、物流の経路を計算し、徴税の例外処理を片付け、軍の通信スケジュールを調整する。それがわたしの一日だった。
もしそれがなくなったら、わたしには何が残るのか。
答えは——何もない。
わたしには友人と呼べる人間がいない。家族もいない。趣味もない。仕事以外の時間の使い方を知らない。
ガルス将軍はわたしを認めてくれた。だが、それはわたしの設計が役に立ったからだ。
レンはわたしに教わりたがった。だが、それはわたしの知識が必要だったからだ。
マーサはわたしを信用してくれた。だが、それはわたしの計算が正しかったからだ。
わたしの価値は、わたしが作った仕組みの中にしかない。仕組みが自立すれば、わたしの価値もなくなる。
——いや。
それは本当だろうか?
エリスさんが淹れてくれるお茶は、わたしの仕組みとは関係がない。彼女はわたしが何をしているか知らない。ただ、わたしが毎朝そこにいるから、お茶を淹れてくれる。
ガルスが戦いの後に「助かった」と言ってくれたとき、それは仕組みへの感謝だったのか、わたし個人への感謝だったのか。
わからない。
わからないが——
わからないなら、確かめに行くべきなのかもしれない。
仕組みではなく、わたし自身の価値を。
宮廷ではなく、別の場所で。
この国の仕組みは、あと少しで自立する。通信塔の自動化が実装されなくても、レンがいる。ガルスの部下が引き継ぎを受けている。マーサは自分で判断基準を持っている。
不完全だが、彼らなら何とかする。
何とかできると、わたしは信じている。
信じているから、消える。
消えることが、わたしにできる最後の設計だ。
────
(リーナ注:最終頁の裏には何も書かれていなかった。ただ、頁の角に小さな折り目がつけられていた。栞のように。まるで、いつか誰かがこの頁を開くことを予期していたかのように)




