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薬師一家の落ちこぼれ  作者: 香田紗季


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9 推し

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 オパールは控え室としてあてがわれている部屋に、ジャスパーに付き添われて戻った。


「ごめん」


 部屋に入るなり、ジャスパーはオパールに謝った。


「カンババ先生の言うとおり、まだ父上に助力を乞うのは早かった」

「いいえ、ジャスパー様があの時に一番いい方法だと思ってくださったのですから、気にしないでください」

「だが、結婚の話も、未知の病気の話も、オパールに負担がかかることばかりだ」

「それなら」


 オパールがそう言いかけたとき、部屋をノックする音が聞こえた。


「誰だ?」

「シュンガイトです」

「入れ」

「は」


 シュンガイトと名乗った騎士が、女性騎士と男性騎士をつれて入ってきた。


「ジャスパー様。代わりの護衛として参りました。ジャスパー様はすぐに辺境伯閣下のところにお戻りください」

「わかった。オパール、彼はシュンガイト。僕たちはシュンと呼んでいる。この版の班長だ。それから、女性がガレナ。もう一人がスティブナイト、スティーブって呼んでいる。みんな父上が腕を認めた、信頼できる者たちだよ」

「みなさん、オパールです。よろしくお願いします」

「ええ、どうぞお任せください」

「悪いが、みんな、頼んだ」

「「「は」」」


 ジャスパーはオパールの頭をそっとなでてから出て行った。シュンとスティーブがそれとなく窓際と扉の側につくと、ガレナがオパールの側に来た。


「オパールさん。一つお伺いしたいことがございます」

「なんでしょう?」


 にじり寄る圧強めなガレナに、オパールの頭が自然と後ろに逃げていく。


「オパールさんは」


 オパールは思わず喉をゴクリと鳴らした。


「オニキス様派ですか、オーブ様派ですか、それともジャスパー様派ですか?」

「は、派?」

「はい。私たちスヴァルトル辺境伯騎士団の女性騎士は、ご子息の中から自分の『推し』を皆の前で宣言します。オパールさんは騎士ではないということですが、オパールさんの『推し』を教えてほしいのです!」


 どうやらオパールがその中の誰かと結婚しなければならないという話までは聞いていないようだ。オパールは困った。


 長男のオニキスとは、出迎えの時に見ただけ。クリスタルとはよく会うらしいが、どんな人かは知らない。


 次男のオブシディアンは、オニキスとクリスタルが駐屯地に行っている間に挨拶されたが、それ以来会っていない。


 接点があるのはジャスパーだけなのだが、ジャスパーを「推し」と表現して良いのかどうか分からない。


「あの、そもそもガレナさんのおっしゃる『推し』とは一体どのようなものなのでしょうか?」

「『推し』とは、その存在全てを愛し、敬い、その姿を見るだけでも心の栄養になり、一日幸せな気持ちになれ、『推し』の幸せのためなら何でもできる、そういう存在です」

「あの……」


 オパールはやはりわからない。


「ガレナさんのお話を聞いていると、恋する相手のように聞こえるのですが」

「恋ではありません! 自分が『推し』の恋愛対象になどなるはずもないことです。遠くからその姿を見、『推し』の幸せを、幸せそうな顔を見ると私どもまで幸せになれる、そういう『尊い』存在なのですから」

「はあ……」

「で、オパールさん。あなたの『推し』は?」

「あの、そういうの、ありません」

「え」

「ごめんなさい、オニキス様とオブシディアン様とは私、一度しかお会いしていないので判断できません。ジャスパー様とはほぼ毎日お会いしていますが、その、ガレナさんのおっしゃる『尊い』という感覚はなくて……」

「いいですか、オパールさん!」


 ガレナに両手を握られて、オパールの目は挙動不審になり、シュンとスティーブは知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。


「この地は辺境です! 戦うことしか能のない男ばかりなのです! そんな男ばかり見ていたら、芋でもいい男に思えてしまうというもの! そんな不幸から身を守るためにも、美しい男性を常に理想として夢を見なければ、審美眼が失われるのです!」

「審美眼……」

「そうです! いい男を常に意識しなければ、掘り出されてもそのまま放置されるだけの、形の悪い、小さな芋に」

「ガレナさん」

「はい」


 オパールはガレナの言葉を止めた。


「男性のことを芋とおっしゃっているのですか?」

「はい!」

「それは男性に対して失礼です。撤回してください」

「え?」


 オパールの言葉に、シュンとスティーブの目がオパールに釘付けになった。


「辺境伯家の皆さんは、確かに美麗な方々であり、そのお姿を拝見するのは目の保養といえましょう。ですが、そのことと、一生懸命にこの地を守ってくださっている、それもガレナさんの同僚を貶めるような発言をすることとは別ではないでしょうか」

「え」

「夢を見てはいけないということなのではなくて……どう言ったらいいかよく分からないのだけれど、女性の騎士さんたちにそんなふうに言われた男性たちだって傷ついているだろうし、わざわざ嫌い合うようなことをすることはないと思うのですが……」


 ガレナは腕を組んで考え込み、シュンとスティーブは目を輝かせている。


「それも、そうですね」


 ガレナはオパールの正しさを認めた。


「ご子息たちは、みんなの憧れなんですよ」

「そうなんですね」

「はい。それでオパールさん」


 再び圧が強くなったガレナは、笑顔で言った。


「質問を変えます。結婚するなら、どなたがいいなと思いますか? ちなみに私はオーブ様ファンです!」


 めげない。へこたれない。ガレナはメンタルも強固なようだ。


(強すぎる……)


 オパールは考えた。そして静かに答えた。


「秘密です」


 にこりと微笑めば、ガレナの毒気は抜かれ切ったようだ。


「そ、そうですね」


 女性騎士たちが推しだのなんだのとキャーキャー言うのを男性騎士たちはストレス発散と一つだと思って黙認しているが、あまり気持ちの良いものではなかったことは確かだ。たじろぐガレナを見ながら、シュンとスティーブは「オパールの勝利」を目撃して、互いにサムズアップしたのだった


読んでくださってありがとうございました。

次回からちょっとシリアスになるので、そのまえにちょっと騎士たちの人間らしさを書いておきたいとおもいました。

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