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薬師一家の落ちこぼれ  作者: 香田紗季


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48 紫龍

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 オパールが目覚めた時、既に王城で戦闘が始まっていた。


「私も行きます」

「だめだ、父上からの命令なんだ」

「いくらご命令でも、従えません。私の声に応じて動物たちだって向かったのでしょう? 私には、彼らに呼び掛けた責任があります」

「わがままを言わないでくれ。危険なんだ」

「危険だからこそ、行かねばならないのです」


 にらみ合う二人の間に、オパールの腕輪に変化していたハウラが体を伸ばした。


『ジャスパー。下がりなさい』


 それは今まで聞いたことのない声だった。威厳に満ちているというよりも、従わざるを得ないような強者の声に、ジャスパーがたじろいだ。


『人である限り、虹蛇様の子である原子の乙女を妨げることはできない。下がりなさい』


 気づいた時には、床を埋め尽くすほどの白蛇たちがオパールとジャスパーを取り囲んでいた。


「いつの間に……」


 絶句するジャスパーにハウラは告げた。


『オパールの望みを叶えないということならば、オパールの傍にいるのはお前以外の男でもよい。オパールがお前がよいと言っているから、我らはお前がオパールの隣にいることを許し、我らの言葉を理解できるようにしてやっているのだ』


 白蛇たちの赤い目が一斉にジャスパーを見た。さすがのジャスパーも、白蛇たちの剣幕に押された。


「お前たちも当然、オパールを守ってくれるのだろうな」

『言わずと知れたこと』


 ジャスパーは後で父からどれほどの叱責を受けるだろうかと思うと憂鬱な気持ちになったが、白蛇たちの怒りを買うこと、何よりもオパールを失うことの方が耐えられない。


 うん、父上にはたっぷり叱られよう。白蛇たちに脅されたとはっきり言おう。


「わかった。オパール、行こうか」

「はい!」 


 外に出ると、馬の用意を命じようとしたジャスパーを、ハウラが止めた。


『みんな、一つになるよ』


 ハウラの声に、白蛇たちが一ヵ所に集まる。白蛇たちは二匹が一匹になり、四匹が一匹になり……やがて一匹、いや一頭の巨大な竜の姿になった。


「白龍?」

『違う。我らは紫のイリスによって浄化され、救われ、苦しみから逃れることを許された哀れな黒龍の……兄弟のようなもの。黒龍亡きあと生まれ変わる紫のイリスを守り、黒龍が自分を救った紫のイリスの願いに応じてその涙から作った<龍の涙>の保護者だ』


 ハウラの言葉がカギだったのだろうか。オパールの頭の中に、母から譲渡された『紫のイリス』の記憶の一部が流れ込んできた。


 虹蛇と戯れた日々。虹蛇が死んで、その鱗から龍たちが生まれたこと。紫龍とイリスが虹蛇の定めた相手だったにも関わらず、白蛇の一匹が邪気を背負いすぎて黒龍となり、黒龍を鎮めるために黒龍の元に向かったこと。


 もう、黒龍はいない。黒龍は邪気の苦しみがから解放され、穏やかな生活をイリスと送り、子どもが生まれた。それが紫龍への裏切りだと気づいた黒龍は、己の命を差し出した。ばらばらになった鱗は樹木の姿に変形して『竜の鱗』となり、魔力を大地から吸い上げて『竜の涙』に移すだけでなく、大地にしみ込んだ邪気を固定した。虹蛇の体から生まれた『竜の涙』を未来永劫守り続けるために、黒龍は己の体を犠牲にしたのだ。


 白蛇たちは、それを知っている。だから、黒龍となった兄弟を救った『紫のイリス』を大切に思っている。


「みんな、ありがとう」

『オパールのためなら、私たちは何でも協力するわ。オパールが悪に染まらない限りはね』


 ジャスパーがじっと自分の手を見つめている。オパールには、ジャスパーが何をしているのか理解できなかった。ただ、必要だと思ったから声をかけた。


「行きましょう」

「ああ、そうだね」


 白い巨大な蛇の背に乗って、二人は王城へと進んでいく。オパールを守るために残っていた動物たちも、その後ろについてくる。


 王城に近づくと、傷ついた動物たちが何頭も倒れていた。魔術師戦に慣れた兵たちでも苦戦しているのが分かる。


「オパール?」


 困惑した表情のジャスパーに、名を呼ばれた。


「助けないの?」


 いつものオパールなら、その場で一人ずつ、一頭ずつ助けただろう。だが、今のオパールは自分のなすべきことが分かっている。一人ずつ、一頭ずつ助けていたら、お城に着くまでに戦闘が終わってしまうだろう。


 オパールが口を開こうとした時、はるか上空から強い魔力を感じた。とっさにその場を離れたオパールは、ドン、という落下音と共に上がった土煙を見つめた。


「オパール、下がって」


 ジャスパーの背の向こう、土煙が落ち着く中で見えたのは、紫黒色の長い髪をなびかせた女性の姿だった。


「王妹殿下、ですね」


 ジャスパーの背から前に出たオパールは、静かに言った。


「そなたが『紫のイリス』か」

「はい。まさかあなた様がそんな姿で生まれ変わっているとは思いませんでしたよ」


 オパールの言葉に、王妹ユタの右の口角が上がった。


「そなた、妾の真の姿が分かるのか」

「もちろんです……紫龍様」


 ジャスパーの目が大きく見開かれた。


「紫龍って、虹蛇から生まれた、あの紫龍?」

「そうよ。そして、『紫のイリス』が嫁ぐはずだった、魂の片割れ」

「真に覚醒したのだな」

「ええ」

「上々じゃ」


 ユタの姿が巨大な竜へと変化した。紫色の龍が、中空に浮かんでいる。


「お前と夫婦になり子をなさねば永遠を生きる龍として完成しないというのに、お前は黒ずんだ白蛇を選んだ。そのせいで妾もまた、何度も生まれ変わらねばならなくなってしまった。此度は女体に生まれてしまったからな、子をなす夫婦にはなれぬ。ならば一つになる方法は、そなたを食らうのみ」


 紫龍の口が大きく開いた。ジャスパーがその前に立ちふさがった。


「オパール、逃げろ!」


 だがオパールは動かない。動物たちがオパールの周囲を取り囲む。


「オパール、早く!」


さあこの後どうなるのでしょう。

読んでくださってありがとうございました。

続きは月曜日に。

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