47 小さなすれ違い
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「オパール! 目が覚めたか!?」
見開いた目に飛び込んできたのは、ジャスパーの顔だった。
「ジャスパー、様……」
「会いたかった。守り切れなくてごめん。もう離さないから」
オパールの右手を握り締めながら涙を流すジャスパーに、オパールは左手を伸ばしてその頬に触れた。
「ただいま戻りました、ジャスパー様」
「うん、お帰り」
そのままの姿で、オパールは王宮内の様子について、知る限りの情報を伝えた。
「つまり、バリシアの王妹派がブロシャンを乗っ取り、ブロシャンの国力でバリシアと全面戦争してバリシアをとブロシャンの両国を手中に収めようとしている、と」
「それだけじゃないわ。お母さんの見た未来では、バリシアは世界を統一して巨大な王国を作っていたって」
「王国じゃなくて帝国と言うべき規模だな。って、お母さんってどういうことだい?」
「お父さんが、お母さんの魂を無理やり引き留めていたらしくてね」
ポケットから小さなケースを取り出すと、もうあの光るものは消えていた。
「この中に、光る玉みたいなものが入っていたの。目が覚めるまでの間、お母さんが夢に立って、いろいろ教えてくれたわ」
「今は?」
「もう、いないみたい。きっと私に伝えるために、お父さんにつかまったふりをしていてくれたのね」
もの言いたげな表情のジャスパーだが、それ以上は口を開かなかった。ただじっと、オパールの手を握って、オパールがそこにいることを確認しているようだ。
「ジャスパー様。先程の話を、みんなに伝えてください」
「うん、もう少し後で」
「ダメです。明日、バリシアの王妹殿下が到着するんです。王都に入るタイミング、どうやって入るのか、魔術師たちとどう戦うか、決めなければならないことはたくさんあるんですよ」
「オパールは……僕に会えて、うれしくないの?」
「うれしいですよ。でも、今は私たちだけの感傷に浸っていられるだけの余裕はないんです。王宮内には、ブロシャンの文官や使用人たちもいます。バリシア王側の魔術師もいます。今はバリシア王側の魔術師たちと組んで、ブロシャンの王に成りすましている男たちを倒さないと……そうだ、その男、オブシディアン様の姿をしていたの。オブシディアン様はスヴァルトル辺境伯家に潜り込むために作り上げた架空の人物で、本当は私の従兄だって言っていたわ」
まくしたてるオパールの興奮を抑えるように、ジャスパーが口を開いた。
「落ち着け。熱くなりすぎるな。大事なものが見えなくなるぞ」
「私を逃がしてくれた魔術師もいるの。彼がひどい目に遭っていないか心配で。お父さんもいるのよ」
「オパール」
ジャスパーがその手でオパールの目をふさいだ。
「ごめん、今はもう少し寝ていた方がいい」
水の魔法が専門だったはずなのに、いつの間に催眠の魔法が使えるようになったのだろう。
オパールの意識は最後まで考えがまとまる前に、暗闇に落ちていった。
・・・・・・・・・・・・
ジャスパーはオパールから聞き出した情報を、父であるスヴァルトル辺境伯に伝えた。同時に、オパールが混乱し、精神的に不安定になっていると説明した。スヴァルトル辺境伯はそうか、と言うと一頻り感考え込んだ。
「オパールは城内を制圧するまで、ここで待機させよう。ジャスパー、お前は残れ」
「しかし、スヴァルトル辺境伯家から子どもが誰も出陣しないというのは」
「『紫のイリス』を守り切るのも重要だ。まだ覚醒しきっていないのだろう?」
「分かりません。途中で興奮したので強制的に眠らせましたから」
「閉じこめられていた間にいろいろあったのだろう。誰か支えてくれる者がいて、その者が戦闘に巻き込まれることを心配しているのではないか?」
「そう、かもしれません」
「心配するな。魔術師戦に慣れたスヴァルトル兵とフェルグソン兵が対応するんだ」
「ただ、心配なのは、オーブ兄上だった人物です」
「そうだな、オブシディアンだと思うと、我らも心が揺らぐ」
「はい」
「だからこそ、ジャスパーは行くな」
父こそ、息子だと信じていた存在がそうではなかった、むしろ敵側の人間だったと知らされたのだから、本当はつらいだろう。そして、息子だからわかる。父が激しい怒りを抑えていることも。
ジャスパーは父の言葉に甘えることにした。
「動物たちだって助けてくれるんだ。こんな戦争、ないぞ」
「はい」
ジャスパーはオパールが眠る部屋に戻った。オパールは静かに眠っている。オパールが見ている夢を自分も見られたらよかったのにとジャスパーは思った。
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