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薬師一家の落ちこぼれ  作者: 香田紗季


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41 オパール、動き出す

皆さんは、台風の被害に遭われていませんか?

どうか誰も、何も傷つきませんようにと祈るばかりです。

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 オパールは尖塔には戻されず、国王の私室のすぐ隣にある、王妃用の私室に入れられた。


「心配するな。いとことの結婚はないわけではないが、バリシアでは5親等以上離れた者との間でなければ子が生まれにくい。わざわざ従妹殿を嫁にする必要はないし、俺には心に決めた方がいる。その方に『紫のイリス』として覚醒したお前を差し出すことこそ、俺の使命なのだから」


 オブシディアンの本当の姿を知らないオパールは、この男を「オブシディアン」としか認識できない。だが、オパールと従兄の関係であることだけはわかった。


「さて、どうしたらいい? 何からすればいい?」


 オパールは考えた。このままではジャスパーたち、そしてスヴァルトル辺境伯家に与した貴族たちも危ない。


「ハウラ」


 オパールの声に、左手にあった白い玉環が小さな蛇に姿を変えた。


『ねえ、思っていた以上に厄介な状況になっているんじゃない?』

「ハウラもそう思う?」


 ジェットの森の奥深く、『竜の涙』を守る白蛇の一匹であるハウラが、伸びをしながら部屋を見回し、きゃ、と小さな叫びをあげた。


『遠見の鏡があるわ。覗きよ、覗き!』


 監視目的なのだろうが、女性を閉じこめた室内に遠見の鏡を置く神経が理解できない。オパールはハウラから遠見の鏡が隠された場所を教えてもらうと、鏡面を伏せた。鏡は自分自身で動くことはできない。鏡面を通して覗き見ることができるものであっても、鏡面が目的の方向を向いていなければ……ましてやその面を覆われてしまえば、何も映せない。部屋を掃除に来るメイドの中に心得がある者がいれば、遠見の鏡は再びその鏡面を表にするだろう。オパールはそれを伏せる。ただそれだけだ。


『私が動いたところでどうにもできないのよねえ』


 ハウラのつぶやきに、オパールは窓の外を見た。ここには認識阻害の魔術が掛けられておらず、外が見渡せた。小鳥が空を舞い、蟻が窓枠を昇っている。窓下の花壇には蝶が戯れ、蜂が花粉を集めるために飛び回り、そんな虫たちを狙ってカマキリやカエルが身を潜めている。


「みんなと話ができればいいのに」


 オパールがぽつりとつぶやいた時だった。窓枠をのぼっていた蟻たちが一斉に登るのを止めて窓枠に集まって来た。蟻だけではない、見える範囲にいた小鳥も蝶も、カマキリもカエルも、オパールが気づかなかったもっと大きな鳥も、庭に放たれている番犬も、オパールの元にはせ参じた。オパールの部屋は二階にあるために犬などは窓まで来ることはできないが、窓の下でお座りをしてじっとオパールの方を見ている。


「そうか、私、動物たちと話ができるんだったわ」

『私と話しているのに、忘れていたの?』

「ハウラはいつも傍にいてくれるけれど、他の動物たちはそうじゃないでしょう? それに、最近はハウラに隠れていてもらうことが多かったし」

『そうよね。寝る直前のわずかな時間しか、オパールと話ができなかったわ』


 動物たちがじっとこちらを見ている。オパールは意を決して声をかけた。


「誰か、ジェットの森からほんの少しでいいの、『竜の涙』を持ってきてくれないかしら。それから、王都の郊外に集結しているジャスパー様たちに、裏切者がいることと、城内はすでにバリシアの王妹殿下の手に落ちたことを知らせてほしいけれど……どうしたらいいかしら」


 オパールの言葉を聞くや否や、大型の猛禽類が一羽、飛び立った。もう一羽がコツコツと窓をつつく。もしやと思って窓を押せば、開いた。


「待って。すぐに手紙を書くわ」


 部屋の中にあった文机の上には、しばらく使われていなかった筆記用具が収められた文箱があった。ペン先はひび割れているし、インクからは水分が減って粘り気を持ち、書きにくいことこの上ない。だが、書くことはできる。箱の中にあった紙を一枚取り出すと、オパールは「バリシア王妹が王城を掌握。王は既に崩御された模様。オーブ様はバリシアの魔術師でそちらを攻撃する準備中」とだけ書いて、大きな猛禽類に「お願い、ジャスパー様に渡して」と頼んだ。猛禽類は足を差し出した。結び付けろということらしい。オパールは手紙を脚に結いつけた。猛禽は即座に飛び上がり、ぐんぐんスピードを上げてあっという間に見えなくなった。


「他の子たちは、力の強い動物たちにジャスパー様たちを助けるよう声をかけてくれない?」


 生き物たちが三々五々散っていく。番犬だけは困ったように尻尾を振っている。


「あなたたちは、何かあったら私を守ってくれる?」


 うんうんとうなずくと、犬たちは尻尾を高く上げて走り去った。どこまで動物たちが頑張ってくれるかわからないが、彼らに期待するしかない。


『オパール。派手にやったわね』

「そう? でも彼らがどのくらい働いてくれるかわからないし」

『あなたのために頑張っているのだから、オパールも頑張りなさい』

「そうね。でも、今の私にできることって、他には何があるかしら?」

『動物たちには協力を頼んだし……そうだ、オパールの本当のお父さんの所に行って、龍の涙を分けてもらったら?』

「考えはしたのよ。でもね、一人で行きたくないの」

『どうして?』

「私には、私を実験材料にしようとしたのがオンファスではなくて、本当のお父さんだったように思えてならないの」

『でも、オンファスが自分だったって言ったんでしょう?』

「そうなんだけど……」


 なぜかは分からないが、本当の父親がオパールを歓迎してくれるとは思えなかった。母をもう一度よみがえらせるためだけに生きている父が、もし母に瓜二つだというオパールを見たら……ハウラがついていてくれたとしても、父を訪ねていくのは最後の手段にしようと決めた。


読んでくださってありがとうございました。

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