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薬師一家の落ちこぼれ  作者: 香田紗季


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32/34

32 提案

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 それからのオンファスは、オパールとの約束通りに行動してくれた。


 まず、スヴァルトル辺境伯家に連絡をひそかに入れ、オパールが王宮内で保護されていると連絡。国王が狙っているのはオパールが持つ『紫のイリス』の力であり、それが何なのかはっきりするまでは害されないだろうが、もし国王が望むような力でなければオパールの父のように利用されるようになるだろうとも伝えた。


 次いで、オパールが完全に『紫のイリス』として覚醒するために、オパールの魔力を高める訓練をしてくれることになった。


 更には、「遠見の鏡」と呼ばれる魔道具を使って、父の様子をのぞかせてくれた。手鏡の形をしたそれは、双方の鏡がリンクしていること、そして鏡面が覆われていないこと、そして動力源となる魔力を流し込めること、この三つの条件が揃えば、国内程度の距離ならば互いの様子を見ることができるというものだ。


「お父さんが下に見えるということは、リンクしている鏡はどこか上の方に隠してあるということなの?」

「当たり。監視対象者だから、いつでも自分が持つこの鏡で君のお父さんの行動をチェックできるようにしているんだ」

「お父さん……」


 声は届かない仕様らしい。父はいそいそと素材を調合し、部屋の隅に置かれた実験動物の死体にそれを与えている。


「『竜の涙』は万能薬だが、死んだ人間には当然効かない。彼は『竜の涙』を超える蘇生薬を作り出そうとしているんだ。そんなことをしたら、この世界から死がなくなる。死がなくなったら、この世界には人間が溢れる。病気の者、怪我をした者は治療されなければそのまま苦しみ続ける。人はいつか老いる。老いた者が死ねずに溢れ、誰も世話をしなくなる。それでも死ねない。食料は不足し、少ない食料を巡って争いも起きるだろう」

「お母さんの体だってもう骨しか残っていないでしょうに、どうやって蘇らせるつもりなのかしら」

「そんなことさえ忘れてしまうほどに、生き返らせることに執着しているんだろうな」

「陛下はどうしてお父さんに研究をゆるしているのかしら」

「オパールはバリシアがなぜブロシャンと仲が悪いか、知っているか?」

「いいえ」


 オパールの答えに、オンファスはそうか、と言った。


「では、バサルト陛下は何歳だと思う?」

「え? 陛下? 20代後半くらいかしら」

「あのお方は、既に60歳を越えている」


 信じられない。顔には張りも艶もあったし、体も若い人のように軽く動かせている。髪は染めれば何とでもなるものだが、それにしてもまるっきり年齢を重ねたことを感じさせるものがなかった。


「あの方は、不老長寿ではなく、不老不死を望んでいるのだよ」

「神にでもなるつもりかしら?」

「自分は黒龍の生まれ変わりだと信じているんだ。だから、神に近い存在としてふさわしくあろうと、おかしな努力を続けている」

「ねえ、オンファス。あなたはどうして陛下の傍にいるの?」

「任務だよ」

「任務?」


 オンファスによると、彼はバリシア国王側の人間で、バリシアの王妹とブロシャンのつながりを探るためにいるのだと言った。


「スパイ?」

「そういう言い方もできるな。だが、自分が任務を受けたのは、君の母親を死なせた者を許せなかったからでもある」

「バリシアの魔術師が絡んでいるところまでは、私にもつかめたわ」

「手段として、バリシアの魔術師が動いたことは否定しない。だが君の母親が亡くなったのは、ブロシャン王家のせいだ」


 オンファスは静かに言った。


「自分も陛下に仕えるようになってからしったことなんだがね。陛下は君の母親が『紫のイリス』ではないかと考え、王宮に誘拐しようとしていたんだ。同時に、陛下は『竜の涙』を欲していたからね。スヴァルトル辺境領に嫁いだ女性近衛騎士に見張りをつけ、適当な頃合いを見て毒を飲ませた。通常の医療では治らない病だと誤認させて、ゴシェナイト家の夫人ならいい薬を作れるはずだと侍医に耳うちし、君の母親を薬師として派遣するように仕向けた。そして、症状から『竜の涙』を取りに行く方向に誘導し、君の母親と『竜の涙』の両方を手に入れようとしたんだよ」

「待って。見張りって、まさかルチルさんのこと?」

「そこまでつかんでいたのかね。優秀だな」


 オンファスは続けた。


「最初の任務である君の母親の監視のために、自分はゴシェナイト氏の下で働く薬師になりすましていた。スヴァルトル領に『竜の涙』が絡む件で派遣されるとなると、気になることがいくつもあったよ。バリシアに戻ろうとするかもしれないからそれを阻止する必要もあったし、君の母親がなぜ『竜の涙』を花を食べたのかを知る機会になるかもしれないとも思った。

 スヴァルトルには、ゴシェナイト家の御者に成りすまして行った。スヴァルトル領についてからは頼りない御者の風体がうまく利用できて、情報をいろいろ探ることができた。ルチルはバリシアの魔術師だったのではない。ブロシャンに生まれながら幼少時からバリシア仕込みの魔術を使えるように育てられた、王直属の暗部だった。今も辺境伯夫人に張り付いているだろう? 王の暗部は、嫁入り時に一緒にやってくる侍女として、最低一人、各貴族家に潜り込ませている。貴族たちは誰も王家に反抗しないんじゃない、反抗する前に暗部が情報を陛下に伝え、潰されているだけなのさ」


 オパールは今すぐにも辺境伯夫人にそのことを伝えたいと思った。


「ルチルはバラカ医師を誘導して君の母親に『竜の涙』を取りに行くしかないと言わせた。そして、ルチルも採集のために護衛として向かう騎士たちに紛れ込んだ。自分がそれに気づいた時には、もう彼らは出発していた。それでもと思って行こうとしたが道は分からないし、何しろ白い毒蛇がいるだろう? あの時の痛みを思い出すと、どうしても行けなかった。 

 翌日、もう意識を失った彼女を連れた騎士が駆け込んできた時、自分は終わってしまったと思った。彼女を看取った後、何が起きたのか調べようとしてルチルとバラカ医師の話を盗み聞きした。

 君の母親が、『竜の涙』を株毎掘り起こそうとしたことを咎めたために、ルチルがこっそりと君の母親を手にかけ、一緒に紛れ込んでいた仲間に君の母親が蛇に噛まれたと証言させ、最低限の『竜の涙』だけを持って、大半を紛れ込んでいた仲間を通じて陛下に届けさせた、君の母親を死なせたのは大失態だ、そういう話だった。

 自分は陛下を憎んだ。彼女が亡くなったことで任を解かれた自分はバリシアに戻った。そして、バリシアの国王陛下に命じられたのさ……ブロシャンの国王に復讐したいなら、傍に行って情報を取ってこいとね」


 オパールは静かに話を聞いていた。矛盾はないと思われる。


「それで。あなたはこれからどうするの? あなた自身も『竜の涙』について、執着していたと思うのだけれど」

「そうだね」


 オンファスは遠くを見るような目をした。


「『竜の涙』が君の母親に何らかの変化をもたらしたのを見て、それが何なのかを知りたかった。そのヒントを得るために『竜の涙』を知りたいと思ってきた。だが、今はバサルト陛下の望む不老不死を辞めさせたい。あの方は君の父親の研究が成功したら、自分の言うことを聞く者や高額の献金をした者に不老不死の薬を与え、そうでない者には一切の治療も投薬も禁じて人々を苦しませるつもりだ。バリシアの王妹は、不老を手に入れるためにバサルト陛下に協力している。彼らのようなものに協力する君の父親も、自分としては許しがたい」

「薬を私利私欲のために利用することは、私も薬師一家に生まれたたものとして許すことはできない。お父さんの目も覚まさせたい。ただ、そのためにはたくさんの人の協力がいるわ。バリシアがスヴァルトルに進攻しないようにさせられないのかしら」

「あれは、王妹の一派がバサルト陛下に早く薬を完成させろ、さもなくば攻めると勝手に行動しているんだ。ついでに言うと、王妹が嫁いだ家が、君の母親が生まれた家なんだよ」


 何ともすっきりしない。だが、このすっきりしないものをすっきりさせるためにも、一つずつ動くしかない。オパールは一つ呼吸を整えてから、オンファスに提案した。


「それではまず、ジャスパー様にこの手紙を渡してくれませんか?」

「これは?」

「クーデターの提案書です」


 オンファスの顔に緊張が走った。オパールはうなずいた。


「行動しなければ、道は開けませんから」


読んでくださってありがとうございました。

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