28 それぞれの思い
読みに来てくださってありがとうございます。
短めです。それから、★ごとに視点が変わります。
よろしくお願いいたします。
バサルトと一緒にいる人物は何者なのだろうか。
オパールはそう思いながら、出ていった二人のことを考えた。ハウラが大丈夫だと言うのだから過分な警戒をする必要はないだろうが、警戒を解く気にはなれない。
「無理やり連れてくるような真似をしたことは悪かったと思っている。だが、あの会場にはお前を連れ去ろうという輩も相当数入り込んでいた。向こうはお前の顔や名前を把握していたようだが、こっちにはその情報が入らなかったんだ。向こうが動いているのだからターゲットは学会に来ている。ならば先手を打って保護しようということになったんだ」
バサルトが言っていた言葉をよくよく考え直す。こんな説明でジャスパーはじめスヴァルトル辺境伯家の面々が納得してくれるだろうかとオパールは少々不安になる。
同時に、オパールはやはりバサルトを信用できないと思った。バリシアの王家とブロシャンの王弟一派がオパールを補足していたならば、ブロシャンの王家がオパールを補足できないはずはない。オパールの存在は貴族であるジャスパーの婚約者として王家に届けられている。オパールの能力については騎士団や一部の人間のみが知る秘匿情報となっているが、王家の影ほどの存在がつかんでいなかったら、この国はたかが知れているということになるだろう。
そもそも、バサルトが国王なのかどうかも怪しい。この国では王家の顔どころか名前も明かされていないのだ。
もし、王家がジャスパーのいう通りの存在であったなら、ジャスパーを呼びに行ってくれるとは思えなかった。
「ねえ、ハウラ。やっぱりおかしいわよね」
『ごめんなさい、オパール。喫緊の危険はないけれど、やはりここは異常よ。ジェットの森のみんなに呼びかけても誰にも声が届かない。間違いなく、この部屋は遮断された空間になっているわ』
「転移なんて私にはできないけれど、ここには転移で入ってくることはできても出ていけないということ?」
『おそらく、例の玉を使わないと出入りできないようにしてあるのでしょうね』
ジャスパーの元に戻るためには、どうすべきか。まずは現状を計画に知り、彼らが解放する気になるように誘導するしかないだろう。
心細くないかと言われたら、心細くてならない。それでも、ジャスパーに会うためにはここから生きて出るしかない。幸いなことに、ハウラがいる。一人ではないのだ。きっと、かつて王都にいた頃のオパールだったら……いや、自分を「薬師一族の落ちこぼれ」であるとしか認識できなかった頃のオパールだったら、絶望して泣いているだけだったはず。できることを見つけて自信を取り戻したオパールは、ハウラが変化した白い腕輪をそっと撫でながらハウラに宣言した。
「私、絶対にここから大きな顔をして出ていくわ」
『いいわね。絶対にやってやりましょ!』
ハウラもその気になったようである。
★★
オパールを見失ったジャスパーは、係員につかみかかった。だが、係員もパニック状態にあり、とてもではないが話ができる状態ではない。運営本部に駆け込んだが、知らぬ存ぜぬの一点張り。スティーブとあちこち駆け回ったが、オパールの姿はない。
「ジャスパー様、そう言えば研究発表が始まるというのに、誰もあの部屋にいません」
「なんだって?」
ジャスパーはバラカ医師と話をするために先程の部屋に戻ってきたが、誰一人その部屋にはいなかった。
「つまり、中にいた貴族も他国の王族も、残念ながらバラカ医師もグルだったってわけか」
「それほど大掛かりなことができるとすればやはりバリシアか、我が国の王家ということになりましょうか」
「それしかないな」
ジャスパーは一度タウンハウスに戻ると、使いの早馬をスヴァルトル辺境領に送った。
夜まで待ったが、やはりバラカ医師は戻らない。クロ確定だ。
バリシア側につかまった可能性もあるが、学会の運営本部が絡んでいたことを考えるとブロシャン王家に捕らえられた可能性が高いとジャスパーは考えた。
(どうすればいい?)
きっとオパールは不安になっているだろう。ハウラが一緒にいることだけが救いだと思った。それに、ハウラとオパールの会話は他の人には聞こえない。独り言をぶつぶつ言っているように見えるだけだ。
(オパール、必ず助けるから。そのためには、まずはオパールを探さないと)
はっとした。オパールを探すのはこれで三度目。今までどうやって探したか……。
ジャスパーは手に力を込めて、水魔法で青い蝶を作った。手のひらの上の蝶に「オパールを探してどこにいるか探せ」と命じると、蝶はふわりと空中に舞い上がった。
「待て、もう一つ」
蝶にメッセージを込めると、ジャスパーは青い蝶を窓の外に放った。
「頼んだよ」
青い蝶はひらひらとジャスパーの周りを飛んでから、王宮の方へと向かって飛んでいく。
(やはり、王宮か)
蝶が無事に戻ることを願って、ジャスパーは蝶の姿が見えなくなるまで、じっと見送り続けた。
★★
「いいか、あの者たちが逃げ出さぬよう、しっかりと見張っておけよ」
バサルトに命じられた兵がオパールのいる部屋の前で敬礼をした。
「主殿、あれをどう使う気じゃ?」
「あれか? まずは王家の評価を高めるために働いてもらおうか」
「どうやって?」
「触れれば解毒できるんだろう? それに、解毒の薬を作れるらしいじゃないか」
「『竜の涙』同等の力があるというのなら、万能薬が作れるはずなんじゃがのう」
「まだ覚醒していないのではないか?」
「可能性は否定できませんな。何しろ、自己肯定感をゼロにするために、これでもかという手を使ったのですぞ。多少の自信を取り戻していたとしても、あのトラウマから自分を信じられなくなるものじゃ」
「1000年に一度生まれ変わる『原初の乙女』は5人。それ以外に、常にこの世に魂を残す『始祖の乙女』2人を合わせて7人。『紫のイリス』以外の魂は全て集めたのだ。これで『紫のイリス』さえそろえば、オレは……」
「夢想する前に、行動することじゃ。少し揺さぶりをかけてこようかの」
年老いた男はするりと姿を変えた。それはバリシアの上級魔術師の術と全く同じもの。
「さあて、この顔で話しかけたら、お前はどんな顔をするのかな、オパール……いや、『紫のイリス』よ」
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