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薬師一家の落ちこぼれ  作者: 香田紗季


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16 消えた

読みに来てくださってありがとうございます。

短めです。オパールにここからちょっと大変なことが起きます。

よろしくお願いいたします。

 治験者は一人が負傷者、四人が病人という内訳だった。負傷者は破傷風を起こしており、病人のうち二人は内臓疾患、もう二人は意識がない状態で、一人は脳疾患、もう一人は重度のインフルエンザであるという。


 こういう人たちには、飲む薬ではなく、張り薬などの方がいいのではないかとオパールは思い、クリスタルを見た。クリスタルも同様に考えたようで、軍医に「自分で飲食できない患者にキャラメルを与えても大丈夫でしょうか?」と尋ねた。


「わかりませんね」


 軍医ははっきりそう言った。


「だが、いつ死んでもおかしくない人間はこの五人だけ。本人の意志を確認できたのは三人だが、重症度を優先させたんです」


 軍医は続けてこう言った。


「キャラメルなら、小さくして唾液腺の傍に押し込めておけばいずれ溶ける。少しくらいは経口摂取できるだろうと思いますよ」

「俺が許可する。やってくれ」

「人体実験にはあまりかかわりたくないんですがねえ」


 軍医はそう言いながら、キャラメルを四等分して、その一つをそれぞれの口に入れた。


「甘い」


 内臓疾患の二人の顔がほどけた。


「死ぬ前にこんなうまいもの食べさせてもらえたんです、十分です」

「俺も、ああ、こんなうまいもの、家族に食わせてやりたかった」


 しみじみとキャラメルを味わっていた二人に、変化はない。


(やっぱり、人間と鳥では違うのね)


 オパールががっかりして部屋を出ようとした時だった。


「ん?」


 軍医の声に、オパールは足を止めた。


「黄疸が消えた?!」


 オパールははっとして肝臓疾患を抱えた患者の様子を見るために戻った。黄色かった肌や目が本来の色にみるみる戻って行く。


「あれ……痛みが……」


 胃の疾患の患者も自分の体の異変に気付いたようだ。


「他の患者の様子も確認しましょう」


 先程まで息苦しそうだった重度のインフルエンザ患者の呼吸は落ち着いている。脳疾患の患者は変化がない。けがから破傷風になった患者は、けいれんが収まり、呼吸も落ち着いてきている。


「治癒というよりは、解毒か」


 オニキスがつぶやいた。破傷風患者の怪我の箇所を確認したが、怪我そのものは治っていない。ただ、化膿していたはずなのに、膿はきれいになくなっている。


「つまり、病原菌によって起きる病は、オパールの魔力で癒せるということか?」

「わかりません。たった30分でこれです。明日になったら何が起きているかわかりません。そもそも四分の一しか摂取させていません。30分では、そのすべてが体内に吸収されたわけでもないでしょう。経過観察に入りますが、知る者はできるだけ少なくしたい」

「クリスタル、やれるか?」

「了解しました」

「あの、私も」

「オパール。お前は『見学者』に過ぎない」


 オニキスの言葉にオパールは反論しようとしたが、その目を見て黙った。


(この件については表に出ない、そういう約束だったよな?)


 オパールの身の安全を確保するためなのだ。分かっている。それでも、ちゃんと治験に参加したかった。


「あとで様子を必ず教えてくださいますか?」

「ああ。約束する」


 カンババの「巣穴」に戻ったオパールは、くよくよしても仕方がないと思い直した。そして、今日作った、魔力を込めたキャラメルのことをよくよく考え直した。


(薬の成分に触れると、解毒作用で薬効を無効化してしまうのなら、何も薬効がないものに私の魔力を籠めれば、少なくとも『解毒』はできる。つまり、基材に直接魔力を籠めれば私にも薬が作れるってことよね。衛生部は今、あのキャラメルの検証で忙しいだろうから、お父さんの所に行けば薬の基材が手に入るかな?)


 何もしない時間がもったいないような気がして、オパールはどうしようかと迷った。


「どうかしたの、オパール」


 そわそわし始めたオパールに、カンババが声をかけた。


「お父さんの所に行って来てもいいですか?」

「どうかしたの?」

「薬の基材を、少し分けてもらおうかと思って」

「今から?」

「はい。なんだか気持ちが落ち着かなくて」

「う~ん、何かあった時のために、オパールは必ずここにいるようにってオニキス様から言われているんだよねぇ」

「少しだけです。スティーブ様もいらっしゃいますし、カンババ先生も一緒に来てくだされば」

「え~、おいら今からリオナと魔術訓練をするんだよ。約束は守る男だからね、おいらは。そうだ、スティブナイト君、君がついていけば大丈夫だろう?」

「かしこまりました。オパールさん、行きましょうか」

「はい。カンババ先生、すぐに戻ります」

「おう、気をつけてな」


 スティーブと一緒にオパールは「巣穴」から出ていった。1時間後、「巣穴」の呼び鈴が激しく鳴った。


「今いいところなのに、なに?」

「オパールさんが行方不明になりました!」

「は? 一緒に行ったんじゃないの?」

「製薬研究所には行きましたが、親子秘密の話があるからと所長の個人研究室には入れてもらえず……30分経っても出てこなかったので無理やり入ったのですが、ゴシェナイト氏もオパールさんも、姿が見当たりませんでした」

「製薬研究所の中は探したのか?」

「他の研究員にも手伝ってもらって探しましたが、見つからなかったんです。もしかしたらこちらに戻っているかもしれないということで、確認に来たのですが」

「戻ってないよ」

「……やはり」


 カンババはハアーと大きくため息をついた。これはオニキスとジャスパーだけでなく、辺境伯からも相当「お叱り」を受けることになるだろう。

「リオナ、訓練は中止。オパールを探さなきゃいけなくなっちゃった」

「オパールお姉ちゃんがどうかしたの?」

「行方不明なんだ」

「え!」

 リオナがスティーブにつかみかかった。

「スティーブさん、一緒にいたんでしょう? どうしてオパールお姉ちゃんを見失うのよ!」

「申し訳ない。だが、今は早くオパールさんを探さないと」

「お父さん、失せ物探しとか、人探しの魔術ってないの?」

「あるんだが、風属性がないと使えないんだよ」

「火じゃだめなんだ」

 リオナががっくりとうなだれる。スティーブは、今から辺境伯閣下とオニキス様に伝えてくると言って走っていった。

「リオナ。おいらたちはとにかくオパールの痕跡を探そう」

「うん」

 突如消えたオパールとゴシェナイト氏がどこにいるか、捜索は始まったばかりである。


読んでくださってありがとうございました。

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