表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第一章《TS転生しちゃいました!》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/142

第53話《対面》

 石の床は冷たく、空気は少し湿っていた。

 遠くで、ゆっくり鐘が鳴る。


 麻袋の口が、そっと開いた。

 冷たい風が、頬に触れる。


「……だいじょうぶ?息、できる?」


 小さな声。

 覗き込んだのは、ナユよりずっと大きいけれど、まだあどけない顔立ちの女の子だった。

 髪は青みがかった黒色で、耳が少しだけ尖っている。

 淡い青色の光をふくんだ目が、不安そうにゆれる。


 女の子は、袋の口を緩めて形を整えた。

 息がしやすいように、手早く、でも優しく。


「こわくないよ。すぐに終わるって……言われたの」


 声は小さく震えていた。

 けれど、手つきは驚くほど丁寧だった。


 木の匙に、少しだけ水。

 女の子は、指先でナユの口元に水を当てる。

 冷たさが、喉を湿らせる。


「名前、ミナ。……わたし、ここで“見てなさい”って言われてるの」


 ナユは、目だけでミナを見た。

 泣かない。

 声も出さない。

 ただ、ミナの目をまっすぐ見る。


 ミナは、はっとしたように瞬きをした。

 それから、ほっとしたように小さく笑う。


「……えらいね。静かに出来るんだ」


 ミナは袋のふちをもう一度直し、優しく毛布をかけた。

 袖口は継ぎ接ぎだらけで、でも綺麗に洗ってある。

 手の甲には小さな傷跡が幾つもあった。


 扉の外で、男の声がした。


「様子はどうだ」


「う、うん。泣いてない……」


「そのまま見ていろ。鐘が四つ鳴る前に移す」


 足音が遠ざかる。

 鐘が、また一つ鳴る。

 石の壁に、響く音。


 ミナは声をひそめた。


「……こわくない、こわくない。ここにいるから」


 ナユの小さな手が、ミナの指を摘んだ。

 暖かい。

 ミナの目が、少し大きくなる。


「……うん。わかった」


 ミナはそっと指を握り返した。

 その手つきは、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。


 鐘が、もう一度だけ鳴った。

 夜の空気が、ゆっくり流れていく。


「今日の記録:塔の部屋で“ミナ”と対面。八歳くらい、耳が少しとがっている。水をくれた。めっちゃ優しい。外では『鐘が四つ鳴る前に移す』との声。……日報完了。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ