第54話《検査》
石造りの塔の一室。
壁には魔法陣を刻んだ円盤が並び、中央には木製の机が一つ。
その上に、白布を敷いた小さな寝台が置かれていた。
ナユはその上に横たえられている。
まだ息は静かで、瞳は閉じたまま。
けれど、意識ははっきりしていた。
目を閉じながら、周囲の音を拾う。
衣擦れ、靴の音、書き付けるペンの音――。
すべてを、頭の中で整理していく。
「……魔力の流動は安定しています。異常値なし」
白衣の男が報告する。
その背後には、灰色の髪を撫でつけたフェルネが立っていた。
「そうか。だが、普通の子であれば“痕跡”は残るはずだ。どこにも反応がないというのは、逆に不自然だな」
フェルネは机に手を置き、淡い笑みを浮かべる。
その瞳の奥には、冷たい光が宿っていた。
「もう一度、魔力波を上げろ」
「し、しかし……この年齢では危険が……」
「構わん。観察だ。もしもの時は――“保護”と記録すればいい」
研究員が躊躇いながらも、魔力装置の水晶を調整する。
淡い光が塔の天井へと立ちのぼり、室内の空気が僅かに震えた。
ナユのまぶたが僅かに動く。
身体の奥で、何かが反応している。
――これが、魔力の流れ……。
内側で何かが温かく回り、全身に広がっていく感覚。
ナユは呼吸を浅くし、無意識のうちに魔力をゆっくりと収めた。
光が揺らぎ、波形が静まる。
「……停止しました。まるで……自分で制御しているような……」
研究員の声が震える。
フェルネの笑みが、さらに深くなる。
「ほう……“赤子”が制御、か。面白い。やはり、ただの奇跡ではなかったようだ」
フェルネは手を組み、静かに言葉を続ける。
「しばらく観察を続けろ。あの子の中に――“答え”がある」
◆
その様子を、ミナは扉の隙間から見ていた。
小さな肩がこわばり、唇をかむ。
ナユが苦しそうに息をしているのを見て、思わず一歩踏み出しそうになる。
けれど、外の護衛が通り過ぎた音で、ミナは動きを止めた。
――今はまだ、助けられない。
でも、いつか必ず。
鐘が一つ、また一つと鳴った。
塔の外で夜明けが近づく。
「今日の記録:塔の中で魔力検査。フェルネが“制御”に反応。ミナは外で見ていた。心配してくれてるのかな?敵の目的はまだ不明……日報完了。」




