↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
435/441

第430話《極光》

 衝撃が、ナユの脇腹を掠めた。


「っ!」


 身体が横へ流れる。


『右後方、〇・一八秒』


(速すぎる!)


『視覚追跡を放棄。《感知》《演算》《未来設計》による予測へ移行します』


(お願い!)


 ナユは地面を蹴った。


「《武御雷》!」


 雷に似た闘気が全身を走る。


 次の瞬間、背後に現れたリュミエルの拳を紙一重でかわした。


「すごいすごい!これにもついてくるんだ!」


 リュミエルは笑っている。


 精霊憑依した今も、その表情には焦りひとつない。


「先生、楽しみすぎ!」


「だって楽しいもん!」


 姿がまた消える。


『前方三、左二、右後方――連続攻撃』


「《プロテクト・サークル・オクタ》!」


 八重の光壁が展開した。


「《エビル・ラッシュ》!」


 拳。


 拳。


 蹴り。


 連撃が光壁へ叩き込まれる。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 光壁が凄まじい速度で砕けていく。


「八重!いいねー!」


「喜ぶところなの!?」


 六枚目が割れた瞬間、ナユは自分から結界を解除した。


「《レイ・バースト》!」


 至近距離で光が爆ぜる。


 リュミエルが初めて大きく後ろへ跳んだ。


「うん!そういう使い方好き!」



 柵の上で、レムは黙って戦いを見ていた。


 その視線はナユだけに向いていない。


 リュミエルの身体を覆う闇へ、時折静かに向けられている。


「……なるほど」


 小さな呟き。


 戦いの最中、リュミエルの瞳が一瞬だけレムへ流れた。


 レムは気づいている。


 そして、わざと何も言わない。


 そんな気がした。


(やっぱり、普通の妖精じゃないね)


 リュミエルの笑顔が、僅かに深くなる。


 だが次の瞬間には、もうナユの前にいた。



「《ダークミスト》!」


 黒い霧が演習区画を覆う。


『視界喪失。対象座標を《感知》で追跡』


(右!)


 ナユが跳ぶ。


 闇の爪撃が足元を裂いた。


「《シャドウ・グリップ》!」


「《スカイハイ》!」


 風を纏い、ナユが一気に上空へ抜ける。


「また飛んだ!」


 下から《ダーク・スフィア》が連続して放たれた。


 空中で身体を捻り、一つ、二つとかわす。


『三発目、回避困難』


「《ルミナス・ヴェイル》!」


 光と闇の複合結界が黒球を受け止める。


 そのままナユは急降下した。


「《サンダー・ブレード》!」


 雷刃。


 かわされる。


 即座に消す。


 懐へ入る。


「《イグニッション》!」


 爆発が再びリュミエルを包んだ。


「やっぱりそれ最高!」


 炎の中から笑い声が返ってくる。


「もっと!もっと見せて、ナユちゃん!」


「じゃあ遠慮しないよ!」



 何度攻めても届かない。


 だが、何度かわされても止まらない。


 ナユは光、水、雷、氷、風を切り替えながら攻め続けた。


 ミラが軌道を計算し、ナユがその先を選ぶ。


『左へ誘導可能。二手後、《フロストストライク》推奨』


(その次に《レイ・エッジ》!)


『最適化します』


 氷塊が逃げ道を塞ぐ。


 光刃が走る。


 だがリュミエルは、その僅かな隙間さえ笑いながら抜けた。


「惜しい!」


「先生、全然困ってないじゃん!」


「うん!」


「即答!?」


 それでも、ナユは分かっていた。


 先ほど失敗した《レイ・カリバー》。


 あれを出さなければ、ここから先へは行けない。


(ミラ、もう一回)


『推奨しません。現状の術式では同一結果となる可能性が高いです』


(でも、先生は越えさせるって言った)


 少しの沈黙。


『了解。全演算領域を形成補助へ移行します』


(ありがとう!)


 光と風が再び右手へ集まる。


 重ねる。


 合わせる。


 だが、また二つの力が互いを弾いた。


「くっ……!」


 刃にならない。


 リュミエルはその様子を見て、にこにこと笑っていた。


「ナユちゃん」


「なに!?」


「重ねようとしすぎじゃない?」


「え?」


「魔法って、そんなにお行儀よく並べなくてもいいんだよ」


 リュミエルが右手を差し出す。


「見てて」


 闇が集まった。


 圧縮され、伸び、一本の漆黒の刃へ変わる。


 訓練場の空気が再び重くなる。


「《レーヴァテイン》」


 マリエルとリカリーネが息を呑む。


 ナユだけは、その剣から目を離せなかった。


『観測。形成過程に《レイ・カリバー》との類似構造を確認』


(同じ……?)


『否。完成原理が近似しています。二属性を保持したまま重ねるのではなく、一つの術式として再定義』


 ナユの目が見開かれる。


(そっか)


 光と風。


 二つの魔法を合わせるのではない。


 最初から、一つの魔法として作る。


 リュミエルが嬉しそうに剣を構えた。


「ほら、ナユちゃん」


 漆黒の魔剣が向けられる。


「先生に見せてよ」


「ナユちゃんの魔法を!」


「――うん!」


 光が生まれた。


 風が包む。


 今度はぶつからない。


 境界が消えていく。


『術式収束安定。魔力位相、完全同期』


 一本の光剣が、ナユの手の中で完成した。


「《レイ・カリバー》!」


 眩い光が訓練場を照らす。


「できた……!」


『再現成功。術式構造を記録しました』


 リュミエルの笑顔が、今日一番大きくなった。


「それ!!それが見たかった!」



 二人が同時に踏み込む。


 極光と漆黒。


 《レイ・カリバー》と《レーヴァテイン》が正面から激突した。


 結界が激しく震える。


「うあああっ!」


「いいね!すっごくいい!」


 ナユは十二重の《ブースト》と《武御雷》を限界まで乗せる。


 それでも。


 漆黒の刃は、少しずつ押し込んでくる。


『出力差、拡大』


(まだ!)


 ナユがさらに踏み込む。


 その瞬間。


『警告。〇・一二秒後、正面より打撃』


 ミラが示した未来。

 リュミエルの拳が、ナユの眼前で止まる。


 いや。


 止まるのではない。


 その一撃を受けた時点で、自分の負けだ。


(見えてる……!)


『回避経路を算出――』


 一瞬。


『……該当なし』


(え?)


『現在の身体能力では回避不能』


 未来は分かっている。

 来る場所も。

 速度も。

 軌道も。


 全部分かっているのに、身体が追いつかない。


 リュミエルの拳が迫る。


(まだ――!)


 その時だった。


 ナユの身体の奥で、三つの闘気が同時に脈動した。


 全身を堅固にする《素戔嗚》。


 雷の如き速度を与える《武御雷》。


 生命力を高める《天照》。


 三つの力が、ほんの一瞬だけ重なる。


『――異常発生』


 ミラの声すら遅れて聞こえた。


 世界が、止まったように見えた。


《無限闘舞――兆し》


 次の瞬間。


「……え?」


 今度はリュミエルが目を見開いた。


 拳の先に、ナユはいない。


 一瞬。


 たった一瞬で。


 ナユはリュミエルの背後へ回り込んでいた。


『全身体能力、測定値急上昇。現在値――算出不能』


(今なら!)


 ナユが振り向きざまに踏み込む。


「はあああっ!」


 完成したばかりの光剣。


「《レイ・カリバー》!」


 極光が横薙ぎに走る。


 完全な死角。


 リュミエルが振り返るよりも速い。


 光の刃が、その眼前へ迫った。


「……すごい」


 それでも。


 リュミエルは笑っていた。


 次の瞬間。


 彼女を包む闇が――脈打った。


「……!」


 柵の上で見ていたレムの瞳が鋭く細められる。


 先ほどまでとは違う。


 リュミエルを覆っていた闇の、さらに奥。


 そこに沈んでいた何かが、一瞬だけこちらを見た。


 闇が膨れ上がる。


 《精霊憑依》が、さらに深くなる。


 そして。


 ぱしっ。


「……え?」


 ナユの声が止まった。


 リュミエルの右手が。


 《レイ・カリバー》の刃を、素手で掴んでいた。


「うそ……」


『解析不能』


 ミラすら短く告げる。


 光と風が融合した第八階梯の魔法剣。


 その刃を、リュミエルは真正面から握り締めている。


 掌を覆う闇と極光がせめぎ合い、甲高い音を立てる。


 リュミエルは掴んだ《レイ・カリバー》を見て、それからナユを見た。


 笑顔だった。


「今の、なに?」


「わ、私にも分かんない!」


「すっごい!」


「先生それどころじゃないでしょ!?」


 だが。


 ナユの身体から、先ほどの異常な力が急速に抜けていく。


『先ほどの状態、終了を確認。身体能力、通常値へ復帰』


(やっぱり……続かない!)


 リュミエルが《レイ・カリバー》を掴んだまま、軽く引いた。


「わっ!」


 体勢が崩れる。


 光剣が霧散するより早く、リュミエルがナユの額へ指先を当てた。


「はい」


 にっこり。


「今度こそ先生の勝ち!」


「……負けたぁ」


 ナユが、その場にぺたんと座り込んだ。


 全力だった。


 新しく覚えた魔法も使った。


 《レイ・カリバー》も、自分の意思で完成させた。


 そして最後には、自分でも知らない力まで一瞬だけ現れた。


 それでも。


 リュミエル先生には届かなかった。


「でも、できたでしょ?」


 ナユは右手を見る。


「……うん!」


 もう《レイ・カリバー》は、偶然一度だけ成功した魔法ではない。


 自分で形を理解し、自分で完成させた第八階梯。


 リュミエルが満足そうに笑う。


「よくできました!」


 その背後。


 レムだけは笑っていなかった。


 彼女が見ていたのは、ナユでも《レイ・カリバー》でもない。


 先ほど一瞬だけ、リュミエルの闇の奥から現れた――何か。


「……なるほど」


 誰にも聞こえないほど小さく呟き、レムは再びいつもの笑みを浮かべた。



「今日の記録:リュミエル先生に全力で挑みました。でも負けました。《レイ・カリバー》はちゃんと成功しました!それから最後に、三つの闘気が一瞬だけ一緒になったような、不思議なことが起きました。ミラにもまだ詳しく分からないみたいです。でも先生は、その状態の私よりもっとすごかったです。《レイ・カリバー》を素手で掴まれました。……あれ、本当に手で掴める魔法なのかな?とにかく今日は、すごく疲れました。日報完了」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。