第42話《魔脈》
昼間、フェルネが屋敷を去った後。
ナユは自室の窓際で、ぼんやりと手の甲を眺めていた。
そこには、まだうっすらと光の痕が残っていた。
フェルネが触れた時に浮かんだ、あの不可思議な“印”。
――やっぱり、まだ残ってる。
……これ、なんか嫌な感じがする。
ナユは小さく息を吐き、《鑑定》を発動させた。
淡い光が視界に広がり、文字が浮かび上がる。
《観測魔印:魔術研究官フェルネの術式。観測対象の魔力の流れや体調変化を、術者へと送信する。長期間放置すると、魔力循環に干渉し、術者の魔力と同調する危険あり。解除方法:自身の魔力を制御し、魔脈を整える事。》
――つまり、覗き見スキルって事?
……しかもこのままだと、俺の魔力がフェルネにリンクする?やめてくれ。
魔力が、あるのか知らないが、俺のものを誰かに使われるのは腹立つ!!
ナユは赤ん坊らしく「んー」と唸りながらも、眉を寄せた。
やるしかない。
《魔力制御》なんてスキルはまだ無いけれど――やってみなければ始まらない。
目を閉じ、呼吸を整える。
胸の奥にある小さな“熱”を、意識で掬い上げるように。
それを糸のように伸ばし、指先に流し込む。
ゆっくり、ゆっくり。
光が掌を照らし、印が淡く震えた。
部屋の空気がざわりと動く。
《魔脈を整えるには、魔力の流れを循環させる事。
押し出すのではなく、巡らせるように――》
――分かってる。
ラノベでよくあるやつだ。
力任せはダメ。
流れを感じろ。
ナユは小さく息を吐き、更に集中した。
すると、光がゆっくりと収束し、手の甲から“印”がすっと消える。
「……見事です」
声に顔を上げると、扉の前にセバスチャンが立っていた。
どうやら全て見ていたらしい。
「この年齢で、自身の魔力を扱うなど前代未聞。……やはり、貴女様は特別ですな」
彼は微笑み、床に片膝をついた。
その瞳には、驚きと敬意が同居していた。
ナユはまだ言葉を話せない。
けれどその胸の奥では、燃えるような衝動があった。
――魔力……使えるようになった。
次は……もっと上手くやってみたい。
セバスチャンは立ち上がり、静かに言った。
「……明日より、魔力制御の訓練を始めましょう。魔力とは、心そのもの。恐れず、受け入れる事です」
ナユの瞳がきらりと光る。
その奥に宿るのは、純粋な興奮と、未来への渇望。
「今日の記録:観測魔印を鑑定。解除には魔力制御が必要だと判明。試したら成功。明日から訓練開始。……この感覚、クセになりそう……日報完了。」




