第43話《修練》
翌朝。
屋敷の広間には緊張した空気が漂っていた。
セバスチャンが正装のまま、真っ直ぐにナユの両親へ向き合っている。
ナユは母の腕に抱かれ、神妙な顔でそのやり取りを見つめていた。
「――魔力の制御訓練を、ナユ様にお許し願いたいのです」
静かながらも、言葉には確固たる決意があった。
両親は顔を見合わせる。
「まだ一歳にもなっていないんですよ……?そんな小さな子に“魔力訓練”なんて、危険すぎます!」
母の声は震えていた。
父も腕を組み、険しい顔でうなずく。
「セバスチャン殿、魔力は扱いを誤れば暴走を起こす。下手をすれば命にも関わると聞きます」
だが、セバスチャンは一歩も引かなかった。
膝をつき、深く頭を下げる。
「重々承知しております。しかし、ナユ様はすでに“自力で魔力を循環させた”のです。これは常人では到底成し得ぬ事。今この時期に訓練を始めれば、将来――王国でも屈指の才となりましょう」
父母は息を呑む。
セバスチャンは続けた。
「魔力は幼少期に鍛える事で、質も量も飛躍的に成長します。放置すれば、制御不能のまま溢れ出してしまう。今こそ、学ぶ時なのです」
その声は熱を帯びていた。
単なる執事の報告ではない。
まるで“師”のような信念がこもっていた。
母は腕の中のナユを見下ろす。
小さな手が、ぎゅっと服を掴んでいた。
――この子、やる気なのね。
その目には恐怖ではなく、静かな決意が宿っていた。
「……分かりました。貴方を信じます、セバスチャンさん。けれど、決して無理はさせないでください」
「心得ております」
セバスチャンは深く頭を下げ、微笑を浮かべた。
「それでは、明朝より訓練を始めましょう。まずは“魔脈の流れ”を感じ取るところから――」
ナユの心が高鳴る。
胸の奥に宿る小さな光が、嬉しそうに脈を打った。
――よし、ついに魔法修行スタートか……!
俺の異世界スローライフ、ここから本番だ!
「今日の記録:セバスチャンが両親を説得。魔力訓練の許可が下りた。明日から正式に修行開始。……魔法少女(仮)への第一歩……日報完了。」




