第408話《略奪》
巨大な隔壁が、地響きを立てながら左右へ開いていく。
暗闇の中から、黒い装甲に覆われた人型兵器が姿を現した。
人間を遥かに超える巨体。
胸部には赤い光を放つ装甲板があり、その奥で強大な力が脈打っている。
『将軍専用人型起動兵器、起動準備開始』
『搭乗者の生体認証を待機しています』
グラッドは血を吐きながら、起動板へ手をついた。
「こいつは……帝国の技術を集めて造られた、俺だけの機体だ……」
動かない脚を引きずり、開いた格納庫へ向かおうとする。
「乗れば……貴様らなど……」
少年の姿となったセバスチャンが、その前へ立った。
「通すとお思いですか」
グラッドが拳を振り上げる。
だが、《魔炎気》を失った動きは、すでにセバスチャンの相手ではなかった。
腕を逸らされ、肩を押される。
グラッドの巨体が床へ崩れ落ちた。
「どけ……《死神》……!」
「勝負は、すでについております」
その間にも、人型起動兵器の胸部へ赤い光が集まっていく。
『緊急遠隔起動へ移行します』
『自律防衛機能を開始します』
機体の頭部に光が灯った。
右腕が持ち上がり、五本の金属製の指がゆっくりと開いていく。
「搭乗しなくても動くのかよ!」
進藤海が構える。
ミナもナユを守るように前へ出た。
「ナユ様、お下がりください!」
ナユは機体を見上げた。
(ミラ、あれを調べて!)
『解析します』
『内部に生命反応はありません』
『胸部中央に、極めて高密度のエネルギー反応を確認しました』
『既存の帝国製動力炉とは構造が異なります』
(特別なものなの?)
『同一反応は施設内に存在しません』
『一品物である可能性が極めて高いです』
人型起動兵器の腕が振り下ろされた。
「避けろ!」
進藤海の声が響く。
セバスチャンが後方へ跳ぶ。
ミナはナユを抱えようと手を伸ばした。
「待って!」
ナユは自分から機体へ走った。
「ナユ様!」
巨大な腕が石床を砕く。
衝撃と破片の中を、ナユは身体強化で駆け抜けた。
機体が次の攻撃へ移ろうとする。
「やらせません!」
ミナが十八重の《ブースト》で跳び上がり、動き始めた腕へ蹴りを叩き込んだ。
機体が僅かに傾く。
進藤海も金色の光を放ち、頭部の視線を自分へ引きつけた。
「今だ、ナユ!」
ナユは黒い装甲の足へ飛びついた。
冷たい金属へ両手を触れる。
『対象の全体構造を確認しました』
『胸部エネルギーコアを含め、単一の機体として接続されています』
胸部の赤い光が、さらに強く輝いた。
『自律防衛攻撃まで、残り三秒です』
グラッドが目を見開く。
「何をするつもりだ!」
ナユは機体を見上げた。
「これ、帝国の大事なものなんですよね?」
「触るな!」
「だったら、もらっちゃいます!」
ナユが叫ぶ。
「《収納》!!」
目の前から巨大な人型起動兵器が、一瞬で消えた。
黒い装甲も。
持ち上げられていた腕も。
胸部に搭載された、一品物のエネルギーコアも。
すべてが格納庫から消失した。
残されたのは、何も置かれていない巨大な整備台だけだった。
『将軍専用機との接続が消失しました』
『エネルギーコアの反応を喪失』
『原因不明』
施設内の機械音声が繰り返す。
グラッドは、空になった格納庫を見つめていた。
「消えた……?」
その声には、先ほどまでの怒りすら残っていなかった。
「帝国が……何十年かけて完成させたと思っている……」
「大切に使いますね!」
「返せ!」
グラッドが立ち上がろうとする。
セバスチャンが背中へ指を打ち込み、その動きを止めた。
「しばらく眠っていてください」
グラッドの意識が途切れ、床へ倒れる。
ミナと進藤海が、ナユのもとへ駆け寄った。
「ナユ様、ご無事ですか!」
「うん!」
「お前、あんなでかいものまで入るのかよ……」
進藤海が空になった整備台を見上げる。
ナユは《アイテムボックス》の中を確かめた。
将軍専用人型起動兵器。
胸部特殊エネルギーコア。
どちらも壊れることなく収納されている。
「持って帰ったら、シズネさんが喜びそう」
「喜ぶどころか、数日は部屋から出てこなくなるかも知れませんね」
少年姿のセバスチャンが戻ってくる。
ミナと進藤海は、警戒するように少年を見た。
何者なのかは分からない。
だが、ナユを守り、グラッドを倒したことだけは確かだった。
ナユは二人へ何も説明しなかった。
セバスチャンも、正体を明かそうとはしない。
「追手が参ります」
少年は、格納庫の奥へ続く軍用搬送路を指した。
「こちらからであれば、古い排水路の出口へ先回りできます」
「分かった。みんなと合流しよう!」
四人は軍用搬送路へ走り出した。
◆
地下第七区画の司令室では、警報が鳴り続けていた。
「将軍専用機の反応がありません!」
「特殊エネルギーコアも消失!」
「格納庫に破壊された形跡はありません!」
「では、どこへ行ったというのだ!」
研究員達の怒号が飛び交う。
進藤海。
実験体として使われていた者たち。
エルフの姫。
精霊王。
黒い楔。
そして、帝国最高機密である将軍専用人型起動兵器と、一品物のエネルギーコア。
そのすべてが、たった一度の潜入で奪われた。
◆
「今日の記録:グラッド将軍が専用の人型起動兵器を動かしました。胸には、帝国にも一つしかない特別なエネルギーコアが入っていました。とても危険だったので、機体もコアもまとめて《アイテムボックス》へ収納しました。壊れていないので、ナユタへ持ち帰ってシズネさんに調べてもらいます。あとは救出した皆さんと合流して、帝国から脱出します。日報完了」




