表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
409/430

第404話《解縛》

 自動制御の復旧まで、残された時間は五十秒を切っていた。


 銀髪の女性の胸元には、黒い楔が深く食い込んでいる。

 そこから伸びる濁った光は、彼女と精霊王を結ぶ契約線へ絡みつき、奪った力を金属管の奥へ流し続けていた。


 ナユは《アイテムボックス》からエリクサーを取り出した。


「これを飲んで」


「ですが……そのような貴重なものを……」


「今は遠慮しないで。あなたと精霊王様を助けるために必要なの」


 ナユは女性の頭を支え、エリクサーを少しずつ飲ませた。


 淡い光が細い身体を包む。

 傷ついていた肉体が修復され、途切れかけていた生命力が戻る。

 枯れ果てていた体力と魔力も、一気に満ちていった。


『肉体損傷、生命力、体力、魔力。すべて完全回復しました』


 女性が大きく息を吸う。

 淡い緑色の瞳に、先ほどまでとは違う強い光が戻った。


 だが、黒い楔も激しく脈打った。

 回復した魔力を奪おうと、濁った光が一気に金属管へ流れ込む。


「また吸われてる!」


 ナユが楔へ手を伸ばそうとする。


 女性は、その手をそっと止めた。


「もう……大丈夫です」


 長く動かしていなかった身体には、まだ僅かな違和感が残っている。

 それでも、力は戻っていた。


 女性は背後の巨大な結晶を見つめた。

 その中では、淡い緑色の影が苦しそうに揺れている。


「長い間、お待たせしました」


 胸元へ手を当て、静かに目を閉じる。


「もう一度……私と共に」


 その声に、結晶の中の影が応えた。


 地下室を満たしていた魔力が、一度だけ大きく震える。

 銀色の髪が宙へ広がり、溢れ出した緑色の光が女性の身体へ重なっていった。


「《精霊憑依》」


 次の瞬間、圧倒的な魔力が中央区画を満たした。


 風のない地下で激しい風が渦巻く。

 床の封印が軋み、壁の魔導具が次々と明滅する。

 女性の瞳には、人ならざる神々しい光が宿っていた。


「なんだよ、この魔力……」


 進藤海が目を見開く。


 女性は胸元へ食い込んだ黒い楔を掴んだ。

 その手には、精霊王の腕が重なるように緑色の光が纏わりついている。


 楔が黒い光を噴き上げ、契約線へさらに深く食い込もうとした。


「私達の契約を……」


 女性の声へ、もう一つの声が重なる。


「この程度の楔で、縛れると思わないことです」


 女性が腕を引いた。


 黒い術式が悲鳴のような音を上げる。

 金属管が激しく軋み、床へ刻まれた帝国の術式が次々と砕けた。


『自動制御復旧まで、残り二十二秒です』


「もう少し!」


 ナユが女性の身体を支える。


 緑色の光が爆発した。


 黒い楔が、契約線から一気に引き抜かれる。

 帝国へ続いていた濁った光が千切れ、空中へ飛び出した。


「ナユ!」


 進藤海が叫ぶ。


 楔は黒い光を撒き散らしながら、再び女性へ戻ろうとしていた。


 ナユは手を伸ばす。


「収納!」


 黒い楔が《アイテムボックス》へ消えた。


 濁った光が完全に途絶える。

 残ったのは、女性と精霊王を結ぶ清らかな緑色の光だけだった。


『抽出術式の消失を確認しました』


『精霊王との契約線に損傷はありません』


 巨大な結晶の中にいた影が光の粒へ変わり、女性の身体へ吸い込まれていく。


 《精霊憑依》の光が静かに収まった。


 女性の体力も魔力も満ちている。

 ただ、長い監禁が残した心の疲れまでは消えていない。

 彼女は小さく息を吐き、ナユを見つめた。


「助けて……いただいたのですね」


「うん。でも、お礼はここを出てからにしよう?」


「ええ」


 女性は、自分の足で拘束台から離れた。


『自動制御復旧まで、残り八秒です』


「走って!」


 四人は中央区画を飛び出した。


 通路の先では、ミナが最後の区画扉を両腕で押さえていた。

 救出された人々は、すでに古い排水路へ入っている。


「お急ぎください!」


 進藤海、銀髪の女性、ナユ、セバスチャンが順に扉を抜ける。

 最後にミナが身を滑り込ませた。


『自動制御、復旧』


 鉄扉が轟音とともに閉じる。


 その向こうで、帝国兵達の怒号が響いた。


 ナユは息を整えながら、銀髪の女性を見る。


「動けそう?」


「はい。身体も魔力も戻っています」


 女性は胸元へ手を当てた。


「そして、あの方も無事です」


 まだ帝都の地下を出たわけではない。

 追手も止まってはいない。


 それでも、帝国の楔は抜けた。

 精霊王との契約は守られた。



 地下第七区画の監視室。


「異界七号、消失!」


「第零霊源体との接続も途絶!楔の反応まで消えました!」


 報告を聞いたグラッドは、ゆっくりと立ち上がった。


 赤黒い魔炎気が、その身体から立ち昇る。


「地下の出口をすべて塞げ」


 グラッドは一人扉へ向かった。


「俺が行く」



「今日の記録:銀髪のエルフの人へエリクサーを使いました。身体も体力も魔力も全て戻り、精霊王様との《精霊憑依》で、帝国の黒い楔を力づくで引き抜いてくれました。飛び出した楔は《アイテムボックス》へ収納しました。精霊王様との契約も無事です。みんなで古い排水路へ入りました。でも、まだ帝都の地下です。全員で逃げます。日報完了」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ