第36話《活用》
王都での暮らしにも、少しずつ慣れてきた。
広い御屋敷には、朝の鐘と共に穏やかな時間が流れる。
セバスチャンは完璧な段取りで家事をこなし、父は庭の手入れを、母は花の世話をしていた。
そんな穏やかな日々の中で、ナユはふと考えた。
――“願い”って、もっと上手く使えないかな?
今までは命を救う為に使ってきた。
でも、毎日一度だけ、何でも叶う。
それなら、ちょっとした生活改善にも使っていいはずだ。
試しに、ナユはベビーベッドの上で小さく手を掲げた。
「《願い》――おむつ、消臭強化仕様にしてくれ」
ふわりと光が広がり、次の瞬間、部屋にあった布おむつから清涼なハーブの香りが漂った。
「まぁ……! いい匂い!」
「ナユが嬉しそうに笑ってるなぁ」
両親が笑顔で見守る中、ナユは内心でガッツポーズを決めた。
――よし!これが“生産性向上”ってやつだ!
その後も、願いの使い方は少しずつ変化していった。
洗濯が乾きやすくなるようにしたり、母の手荒れを治したり。
どれも些細な事だったが、確実に生活は楽になっていく。
そして気づいた。
“願い”はただの力じゃない。
誰かの役に立つ事でこそ、真価を発揮するんだと。
その夜。
父が寝る前に呟いた。
「王都の空って、不思議と優しいな。星がこんなに見えるなんて……」
母が微笑む。
「きっと、神様が見守ってくれてるのね」
ナユは小さな手を胸の上で組み、心の中で小さく呟いた。
――いや、神様って多分、俺の方見てニヤニヤしてると思うけどな。
「今日の記録:願いの活用を開始。生活改善、効率化、家族の笑顔アップ。スローライフの“最適化”……日報完了。」




