第37話《喧騒》
王都の朝は、まるで生きているかのようだった。
石畳の通りを行き交う馬車、香ばしいパンの匂い、賑やかに響く商人の声。
ナユは母の腕に抱かれながら、広がる世界を見渡していた。
――すげぇ……情報量が多すぎる。
視界の端から端まで“商機”の塊だな。
市場の通りには、見た事のない食材が山のように並んでいた。
真っ赤な果実、青く光る魚、紫の穀物。
どれも村では見た事のないものばかりだ。
「この果物、甘い香りがするわ」
「こっちは干し肉か……保存が効きそうだな」
父と母は目を丸くしながら、王都の食文化に感嘆していた。
セバスチャンは周囲に目を配りながらも、無駄のない動きで買い物をこなしていく。
ナユはそんな中、露店の並びを眺めながら思った。
――同じパン屋でも、並べ方が違うだけで売れ行きが変わってるな。
呼び込みの声の高さ、商品の配置……全部データだ。
サラリーマン時代の癖で、つい市場分析が始まってしまう。
だが、今のナユにできるのは観察だけだった。
それでも、見ているだけで胸が高鳴る。
買い物を終え、御屋敷へ戻る帰り道。
街の中心部を抜ける時、賑やかな声が耳に届いた。
石造りの立派な建物の前に、屈強な男達と武装した女性達が集まっている。
扉の上には大きな看板が掲げられていた。
『冒険者ギルド 王都本部』
ナユの瞳がきらりと輝く。
――おおおおお……!
異世界テンプレ、きたぁぁぁぁ!!
勇者、魔王、ダンジョン……そして冒険者。
憧れた世界が、今ここに現実として存在していた。
セバスチャンが気づき、穏やかに言う。
「王都では、冒険者が多くの任務を請け負っております。魔物討伐、護衛、探索……国の発展を支える、いわばもう一つの“柱”です」
父は感心して頷いた。
「なるほど……村を守ってくれたのも、あの人達だったな」
母はナユを見下ろして微笑む。
「いつか、あなたも……こんな人達みたいに立派になるのかしらね、危険な事はして欲しくないけど、私達はあなたのやりたい事、応援するからね」
ナユは目を細めた。
――ありがとう、お母さん。
悲しい思いはさせないさ。
いつか俺も、冒険者としてこの街を歩く。
“願い”を武器にして。
「今日の記録:王都の市場を探索。食文化と商人の技に驚嘆。帰りに冒険者ギルドを発見。次の目標が見えた気がする……日報完了。」




