第38話《静寂》
夕暮れ。
王都の喧騒が、ゆっくりと遠ざかっていく。
赤く染まる空の下、ナユ達は御屋敷へと戻る帰り道。
昼間の市場の熱気とは打って変わり、街路はどこか静まり返っている。
「……昼とはまるで別の顔ですね」
セバスチャンが穏やかに呟いた。
その声音には、どこか警戒の色があった。
「夜の王都は、美しくも危ういのです。欲望が満ち、影が濃くなる――人も、魔も、同じ事」
その言葉に、父は僅かに背筋を伸ばした。
「……なるほど。村じゃ夜は寝るだけだったからな」
御屋敷に戻る途中、ナユはふと気配を感じた。
狭い路地の奥――誰かがこちらを見ている。
だが母の腕の中からでは確かめようがない。
それでも、背筋に小さな冷たいものが走った。
――ん? 今の、なんだ……?
屋敷に戻ると、セバスチャンは扉を静かに閉めた。
「外はすでに危険です。今夜はお早めにお休みください」
その言葉に、母は頷き、ナユを寝室へと運んだ。
柔らかなベッドに寝かされ、天蓋越しに天井を見上げる。
――王都。
昼は賑やかで眩しく、夜は静かで不穏。
この街には、“表”と“裏”がある。
ナユは、まだ幼い体のまま小さく息を吐いた。
その瞳には、不思議な決意が宿っていた。
「今日の記録:市場の後、夜の王都を観察。昼とは違う“静寂”の顔を見た。この街の奥には、何かが潜んでいる……日報完了。」




