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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第六章《迷宮都市ナユタ編》

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第316話《嘲笑》

 石畳は抉れ、噴水は根元から倒れ、中央区画の面影は瓦礫の下に埋もれていた。

 黒泥のような瘴気が地面を這い、踏み込むたびに靴底へまとわりつく。


 上空の黒い巨体が、ゆっくりと身を揺らす。


 無数の目が開き、街を見下ろす。


 笑っている。


 音はない。

 だが確かに、愉しんでいる。


 その瞬間、空気が沈んだ。


 見えない圧が降り、瓦礫が震え、崩れた壁が軋む。


「……っ!」


 依子が膝を沈める。

 拳を地面に打ち込み、身体を支える。


 バルゴが戦斧を地面に突き立て、体勢を保つ。


 銀翼の呼吸が乱れる。

 剣先がわずかに下がる。


 雷神が巨大武器を肩に押し当て、歯を食いしばる。


 ザヴェルが地を踏み抜く。

 黒雷が拳に走り、圧を弾き返す。


 サバリネの腐食が足元へ広がるが、すぐに闇へ飲まれた。


 魔王だけが、動かない。


 聖剣ルミナリスが白く脈打つ。

 その光が、辛うじて闇を押し止めている。


 黒い穴から、再び塊が落ちる。


 一つ。

 二つ。

 十。


 黒い塊は着地と同時に形を整える。


 強化フォレストウルフが牙を剥く。

 強化スケルトンが槍を構える。

 グールが低く呻き、囲いに回る。

 レッサードラゴンが翼を震わせる。

 赤いベアーの強化体が、重く息を吐く。


 依子が前へ出る。


 拳が唸り、ベアーの顎を打ち抜く。

 黒い殻が砕け、内部が崩れる。

 だが塊は、完全には消えない。


 バルゴの戦斧が横薙ぎに走る。

 群れがまとめて吹き飛ぶ。

 叩き落とし、踏み砕く。


 銀翼が滑る。

 銀色の軌道が二度、三度。

 関節を断ち、首を落とし、崩す。


 雷神が武器を展開する。

 変形機構が鳴り、質量が振り下ろされる。

 衝撃が地面を割り、強化体をまとめて砕く。


 ザヴェルが間合いを詰める。

 黒雷を纏った拳が、頭蓋を粉砕する。

 肘が肋を砕き、蹴りが翼をへし折る。

 破壊は肉体から叩き出される。


 サバリネの腐食が走る。

 魔物の脚から崩れ、群れの動きが鈍る。


 だが。


 空を裂く斬撃が巨体を抉っても。


 裂け目は閉じる。


 泡立ち、蠢き、繋がる。


 削れたはずの部分が、何事もなかったように埋まる。


 倒したはずの塊の横に、新たな塊が落ちる。


 湧く。


 終わらない。



 時間が経つ。


 息が荒くなる。


 足が重くなる。


 銀翼の踏み込みが浅くなる。

 雷神の振り下ろしが遅れる。

 依子の拳に鈍さが混じる。

 バルゴの斧が僅かにぶれる。

 ザヴェルの黒雷が散る間隔が短くなる。

 サバリネの腐食が薄くなる。


 黒いクジラだけが、変わらない。


 むしろ。


 濃くなっている。


 魔王の視線が、戦場の外へ向く。


 瓦礫の陰。


 崩れた屋根の下。


 逃げ遅れた人々。


 泣き声。

 震える呼吸。

 祈り。

 絶望。


 その感情が、瘴気に溶けている。


 そして。


 黒い巨体の裂け目へ、吸い込まれていく。


 魔王の目が細まる。


「サバリネ」


 視線を外さないまま問う。


「奴の、根源は何だ」


 サバリネが応じる。


「魔王様、当初は瘴気と見られておりました」


 黒い断面が閉じる。


「ですが……あれは瘴気を纏っているのではありません」


 わずかに目を細める。


「負の集合体そのものかと」


 魔王が、再び巨体を裂く。


 裂け目へ、街の恐怖が流れ込む。


 閉じる。


 速い。


 理解が落ちる。


 魔王が低く告げる。


「……奴の再生能力は」


 聖剣が白く輝く。


「この街全体に渦巻く恐怖という負の念を喰らい、それを力へ、そして、生命力に変えているのか」


 依子が息を呑む。


「……だから減らねぇのかよ」


 バルゴが空を睨む。


 銀翼が唇を噛む。


 雷神が武器を握り直す。


 ザヴェルが舌打ちする。


 サバリネが静かに頷く。


 黒いクジラは、無言のまま。


 目だけが、細く歪む。


 まだ、余裕がある。


 戦力差ではない。


 感情差。


 魔王が剣を構える。


「ならば」


 白い光が広がる。


「恐怖を断つ」


 黒い目が、一瞬だけ揺れた。

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