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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第六章《迷宮都市ナユタ編》

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第317話《崩落》

 黒い目が、揺れた。


 だが。

 それは恐れではない。


 理解されたことへの。


 苛立ち。


 次の瞬間。


 空が、落ちた。


 黒い巨体の周囲に渦が生まれる。

 瘴気が巻き上がる。

 街を覆う。

 視界を奪う。


 泣き声が増す。


 叫びが混じる。


 それが。


 吸われる。


 黒い裂け目が。

 喰らう。


「……ちっ」


 魔王の舌打ちは低かった。


 裂いた傷が、閉じない。


 いや。


 膨らんでいる。


 再生ではない。


 増幅。


 黒い巨体が、ひと回り。

 いや、ひと息ごとに大きくなる。


 依子の目が見開かれる。


「おい……ふざけんなよ」


 黒い塊が、降る。


 だが、今回は違う。


 着地と同時に。

 混ざる。


 喰い合うように。

 溶け合うように。


 フォレストウルフとスケルトンが絡み合う。

 ベアーの腕にドラゴンの翼が裂けるように生える。

 骨の鎧が何枚も重なり、殻が厚く、鈍く、禍々しく膨れ上がる。


 質が変わった。


 もう、ただの数ではない。


 雷神が振り下ろす。


 鈍い音。


 割れない。


「硬ぇ……!」


 銀翼の斬撃が走る。


 滑る。


 刃が弾かれる。


 ザヴェルが拳を叩き込む。

 黒雷が爆ぜる。


 亀裂。


 だが。


 すぐに塞がる。


 依子が全力で打ち込む。


 腕が痺れる。


「……っ!」


 逆に、弾かれる。


 バルゴが前に出る。

 戦斧で受ける。


 衝撃。


 足元が割れる。


 押される。


 その横で。


 サバリネが、静かに指先を上げた。


 薄紫の霧が、細く、しなやかに伸びる。

 融合体の脚へ絡みつく。


「少しは、お止まりなさいな」


 黒い肉が崩れる。

 骨が軋む。


 だが。


 瘴気が。


 腐敗を、喰う。


 紫が、削られる。

 崩れた脚が、黒い殻を盛り上がらせて立ち直る。


 サバリネの瞳が細まる。


「……まあ。

 なんて行儀の悪い」


 ザヴェルが横から割り込む。


 だが数が違う。


 上から。


 横から。


 背後から。


 さらに降る。


 さらに混ざる。


 さらに膨れる。


 魔王が斬る。


 聖光が走る。


 裂け目が広がる。


 だが。


 街の恐怖が、そこへ流れ込む。


 止まらない。


 依子が吹き飛ぶ。


 瓦礫に叩きつけられる。


 銀翼の肩が裂ける。

 血が滲む。


 雷神が膝をつく。


 ザヴェルの黒雷が散る。


 バルゴの戦斧が弾かれる。


 薄紫の霧さえ、黒に削られていく。


 戦線が。


 崩れる。


 黒い融合体が、一歩踏み出す。


 重い。


 空気が、軋む。


 依子が立ち上がる。


 だが。

 足が震えている。


「まだ……だろ」


 拳を握る。


 だが。


 黒い巨体が、笑う。


 音はない。


 それでも確かに。


 嘲笑。



 瓦礫の影で。


 ミナは、その光景を見ていた。


 救助を終えた子どもを抱えたまま。

 その小さな体ごと、震えている。


「……そんな」


 依子が。


 バルゴが。


 銀翼が。


 雷神が。


 ザヴェルが。


 押されている。


 そして。


 あの魔王でさえも。


 恐怖が広がる。


 人々の目が戦場を見る。


 その視線が。


 黒い巨体へ吸い込まれていく。


 ミナは歯を食いしばる。


「やめて……」


 それ以上。


 怖がらさないで。


 でも。


 止められない。


 空が暗くなる。


 黒い融合体が、さらに増える。


 依子が、膝をつく。


 銀翼が、片足を引く。


 雷神の武器が、重く沈む。


 ザヴェルが吼えるが、押し返せない。


 サバリネの霧も、薄い。


 魔王の聖光が、薄い。


 ミナの胸が、締め付けられる。


 ナユ様。


 今、どこにおられるの。


 あなたなら。


 あなたなら。


 きっと。


 でも。


 遠い。

 間に合わないかもしれない。


 黒い巨体が、腹を開く。


 巨大な影。


 今までで最大。


 戦場を覆う。


 依子が顔を上げる。


 覚悟の目。


 バルゴが前に出る。


 銀翼が剣を握る。


 雷神が歯を食いしばる。


 サバリネが、静かに指先を持ち上げる。


 ザヴェルが笑う。


 魔王が静かに構える。


 全員が。


 終わりを理解している。


 ミナの喉が震える。


「……早く、来てください」


 声が、掠れる。


「ナユ……様」


 巨大な塊が、落ちる。


 ミナは目を閉じる。


「お願いです」


 涙が落ちる。


「……助けてください!!」


 空が。


 闇に呑まれた。

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