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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第六章《迷宮都市ナユタ編》

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第315話《開眼》

 聖剣ルミナリスが振り下ろされる。


 白銀の斬撃が夜空を裂き、

 黒いクジラの巨体を深く抉った。


 瘴気が爆ぜる。


 裂け目から溢れ出した黒は粘ついた液のように垂れ、

 地に落ちる前に蒸発する。


 魔王は止まらない。


 一歩踏み込み、

 横薙ぎ。


 さらに跳躍し、上段から叩き斬る。


 連続する斬撃が巨体を刻む。


 確実に斬れている。

 確実に削れている。


 だが。


 裂けた断面が泡立つ。


 黒い肉のようなものが蠢き、

 絡み合い、

 焼かれたはずの部分を覆い直す。


 聖剣に斬られた痕すら、

 時間を逆流させるように修復されていく。


 削れている。


 だが“減っていない”。


 魔王の瞳が細くなる。


「消耗の概念がないか……厄介だな」


 その瞬間。


 黒いクジラの表層が内側から裂けた。


 縦に。

 横に。

 斜めに。


 亀裂が走り、

 そこから覗く。


 目。


 一つではない。


 十。

 百。

 千。


 無数の瞳が全身に開く。


 色は深淵。


 底なしの闇。


 視線が刺さる。


 依子の呼吸が止まる。

 バルゴの戦斧が軋む。

 銀翼の指先が白くなる。

 雷神の武器が低く鳴る。


 ザヴェルの笑みが消え、サバリネの瞳が細くなる。


 そして――声。


 耳ではない。


 脳髄の奥へ直接落ちる。


 この場にいる“強者”だけに届く言葉。


 ――われは、全ての生命を喰らう者……


 重い。


 事実そのものの響き。


 ――われは、この地にして、はるか昔より存在する者……


 脳裏に断片が流れ込む。


 森が沈む。

 街が崩れる。

 命が喰われる。


 ――名を、○@!&≮#ーという……


 音が歪む。


 理解しようとすると頭痛が走る。


 ――力ある者達よ。


 無数の瞳が中央区画を見下ろす。


 ――われの邪魔をせぬなら、生かしてやろう。


 沈黙が落ちる。


 瘴気が揺れる。


 最初に口を開いたのは、依子だった。


「仲間を喰った奴の提案なんて聞くわけないだろ」


 拳を握る。


 怒りではない。

 覚悟だ。


 次にバルゴ。


「この街はあいつの……ナユの希望だ。土足で踏み荒らすな」


 背後に瓦礫。

 背後に人々。


 それでも前に立つ。


 銀翼が剣を構える。


「守るために剣を握っている。退く選択肢はない」


 静かで鋭い声。


 雷神が武器を肩に担ぐ。


「雷は逃げねぇ。落ちるだけだ」


 重く、低い宣言。


 ザヴェルが嗤う。


「喰らう側が交渉とはな。笑わせる」


 牙を見せる。


 サバリネが静かに告げる。


「選別するのは貴方ではありませんわ」


 断罪の瞳。


 最後に。


 魔王が聖剣を持ち上げる。


 白銀の光が闇を押し返す。


「生かす……?」


 低く響く声。


「ふん、勘違いするな」


 剣先が黒いクジラを指す。


「この場に立つ者は、退かぬ」


 一歩踏み出す。


「消えるのは貴様だ」


 その瞬間。


 黒いクジラの無数の目が一斉に見開かれる。


 空間が歪む。


 怒りか。

 歓喜か。

 選別か。


 世界が、さらに深い段階へ落ちた。

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