第314話《現出》
白銀の召喚陣が回転する。
闇を押し退ける光が空間を固定し、中央区画を覆っていた瘴気が一瞬だけ押し返された。
召喚陣の中心が裂ける。
落ちたのは光ではない。
影。
だが、黒ではない。
深い、澄んだ夜の色。
足先が石畳に触れた瞬間、音が消えた。
黒い触手が止まり、魔物が硬直する。
現れたのは、一人の男。
外套を纏い、静かな威圧を放つ存在。
そして、その右手に握られているのは――剣。
白銀に輝く刀身。
淡い光を帯びた紋様。
柄から流れる清浄な魔力。
聖剣ルミナリス。
闇の中央に、あり得ない光。
ザヴェルの目が見開かれる。
「……おいおい」
サバリネの声が低くなる。
「どういう事ですの……何故ここに」
魔王は周囲を見渡す。
瘴気。
魔物。
空の黒いクジラ。
静かに、剣を持ち上げる。
その刃がわずかに光る。
迫りくる闇が、焼けるように消える。
黒い瘴気が後退する。
魔物が悲鳴を上げる。
聖なる光。
それを握っているのは、魔王。
「突然呼ばれたと思ったら、あやつは近くにいないのか」
低く告げる。
「ふむ、我を先行させたということは……危機的か」
空を見上げる。
黒いクジラが、大きく身を揺らす。
初めて、明確に警戒した。
「奇怪な魔物だな……」
魔王が一歩踏み出す。
聖剣ルミナリスの光が強まる。
闇が軋む。
ザヴェルの喉が鳴る。
「……呼ばれた??」
サバリネが呟く。
「ナユ……貴女、まさか」
魔王は振り返らない。
「ナユが来るまで相手になってもらうぞ?」
その瞬間、聖剣が閃いた。
白い斬撃が空へ伸びる。
黒いクジラの表層を、初めて裂いた。




