第312話《猛者》
城門前の石畳が、黒い血で濡れている。
煙。
瘴気。
崩れた屋根。
そこへ、一陣の銀が駆け込んだ。
馬から飛び降りた女剣士が、街を一望する。
銀色の長剣。
翼を模した意匠。
風を切る立ち姿。
S級冒険者『銀翼』アシュリー。
「……遅れた、な」
短く呟く。
本来は王都滞在中。
護衛任務で即応不可だったはず。
だが異変を聞きつけ、強行で駆けてきた。
目に映るのは、戦場。
魔物。
崩落。
黒い穴。
「これは……」
言葉を失う。
その瞬間、城門の外で地鳴りが響いた。
重い。
桁違いに重い。
巨大な黒鉄鎧を纏った馬が止まる。
そこから降りたのは、大柄な男。
肩に担ぐのは、異様な特大武器。
刃にも槌にも見える。
内部に歯車が覗く、変形機構。
SS級『雷神』シグ。
「ちっ……」
息を吐く。
「間に合ってねぇな」
二人の視線が、同時に空へ向く。
黒いクジラ。
広がる穴。
魔物で埋まる街。
「ヤバいどころじゃない」
アシュリーが剣を抜く。
銀の軌跡。
だが。
石畳が軋む。
振動。
路地の奥から現れたのは――赤。
赤い毛並み。
異様に発達した筋肉。
血走った目。
赤いフォレストベアー。
かつてナユが倒した個体を模した強化体。
一体ではない。
二体。
三体。
四。
それぞれが通常個体の比ではない威圧感を放つ。
一匹一匹がA級相当。
街の冒険者では止めきれない。
アシュリーが構える。
「分担するぞ、『雷神』」
シグが武器を地面へ叩きつける。
内部の歯車が回転する。
変形。
刃が展開し、雷のような魔力が走る。
「派手にやるぞぉ!!!」
赤熊が同時に突進する。
速度が異様に速い。
アシュリーが踏み込む。
銀翼の一閃。
熊の前足が斬り飛ぶ。
だが止まらない。
もう一体が横から襲う。
剣が弾かれる。
衝撃。
石畳が砕ける。
その横を雷が走る。
シグの武器が振り抜かれる。
空気を裂く重撃。
赤熊の胴体が抉れ、吹き飛ぶ。
轟音。
だが。
まだ二体。
血と瘴気を撒き散らしながら、再び立ち上がる。
「硬ぇな……!」
シグが唸る。
アシュリーの目が鋭くなる。
「A級どころじゃない。限りなくS寄り」
赤熊が咆哮する。
街の瓦礫が震える。
四体が包囲する。
銀翼と雷神が背中合わせになる。
「背中、預けるぞ」
「好きにしろ」
赤熊が跳ぶ。
銀の軌跡と雷の轟音が、同時に炸裂した。




