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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第六章《迷宮都市ナユタ編》

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第310話《再現》

 黒い塊が、他と違う揺らぎを見せた。


 地面に触れる前に、人の輪郭を持つ。


 細身の体躯。

 癖のある立ち方。

 そして手には、光を反射しない黒いナイフ。


 日村依子の呼吸が止まる。


「……有人」


 石畳に立つそれは、田城有人だった。


 あの日と同じ装備。

 同じ構え。

 同じ距離の詰め方。


 だが目が違う。


 空洞。


 意思がない。


 黒い“田城”が消える。


 否。


 視界から外れただけだ。


 背後。


 首筋へ走る刃。


 火花が散る。


 バルゴの戦斧が弾いた。


「前を見ろ」


 短い声。


 依子の喉が鳴る。


 黒い田城は間を置かない。

 地面を蹴り、再び懐へ潜る。

 ステルスの癖。

 死角を取る動き。

 呼吸のタイミング。


 全部、本物と同じだ。


 依子の足が一瞬止まる。


 その一瞬が命取りになる。


 ナイフが肩を裂く。


 血が走る。


 だが依子は退かない。


「……違う」


 低く、吐き出す。


「お前は、あいつじゃない」


 筋肉が膨れ上がる。


 《パワフル》。


 骨が軋み、腕が太くなる。

 本人が嫌う姿。


 黒い田城が再び消える。


 だが今度は、読める。


 踏み込みの角度。

 体重移動。

 癖。


 依子は振り向かない。


 拳を振り抜く。


 空間ごと殴る。


 衝撃。


 黒い殻がひび割れる。


 田城の顔が崩れ、瘴気が漏れる。


「……ごめん」


 最後の一撃。


 真正面から打ち抜く。


 黒い身体が砕け、霧のように消える。


 静寂。


 依子は立ったまま、拳を握る。


 震えはない。


 目も揺れていない。


 乗り越えた。


 黒いクジラを睨む。


「次は、お前だ」


 その時だった。


 穴の縁が、もう一度波打つ。


 黒い塊が、ひとつ、ふたつ。


 落ちる。


 人型。


 ナイフ。


 細身の体躯。


 癖のある立ち方。


 ――田城。


 またひとつ。


 またひとつ。


 十を超える。


 石畳に並ぶ、同じ顔。


 同じ目。


 同じナイフ。


 依子の前に、円を描くように立つ。


 黒いクジラが、わずかに身を揺らした。


 試している。


 壊せるかどうかを。


 依子は、拳を握り直す。


 筋肉がさらに膨れ上がる。


「……上等」


 十を超える田城が、同時に消えた。

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