第28話《旅路》
村を出て、馬車は揺れながら進んでいた。
窓の外には、見慣れぬ景色が広がっている。
畑の向こうに続く草原。
野花の咲く丘。
遠くには、森の黒い影。
母はナユを抱き、父は窓から外を警戒するように見ていた。
村長は深く腰を下ろし、道中の安全を祈るように目を閉じている。
馬車は時折大きく揺れる。
がたん、と音がするたび、ナユの小さな体がふわりと跳ね上がった。
「きゃっ……ナユ、大丈夫?」
母が慌てて抱き直すが、ナユの心はむしろ高揚していた。
――うおお、これぞ異世界旅行!馬車って意外と遊園地のアトラクション感あるな!
赤ん坊なので出る声は「あー」だけだが、内心テンションは最高潮だった。
やがて道の脇で車輪が石に乗り上げ、大きく傾いた。
「おっと!」
「揺れるぞ、しっかり掴まれ!」
御者の叫びに兵が慌てて馬を抑える。
村長が危うく転げ落ちそうになり、父がとっさに支えた。
「……ふぅ、まだ村を出て半日も経っておらんのに、大冒険じゃな」
額の汗をぬぐう村長の声に、思わず皆が笑った。
母は小声で囁いた。
「ねえ、王都ってどんな所なのかしら。私、想像もつかないわ」
父は少し考え、力強く答える。
「きっと広い。人も多い。……だが、どこにいても俺達は家族だ」
母の目が潤み、ナユを抱きしめる腕に力がこもる。
ナユはその温もりに包まれながら、外の景色を見つめた。
――こうして旅をしてるだけで、物語が進んでる感あるな。
小さな一歩だけど、大きな未来に繋がってる。
「今日の記録:王都への旅路開始。馬車は揺れるし、道も険しい。けれど家族と村長が隣にいるから、不思議と安心出来る……日報完了。」




