第29話《目標》
馬車は森を抜け、丘を越えていた。
窓の外には、村では見た事もない大地の広がり。
ナユの心臓は、ただ景色を見ているだけでも高鳴っていた。
休憩の為、馬車が止まり、兵の一人が水を飲みながら呟いた。
「……この先の山脈のふもとには魔の森ってのがあって、そのどこかに大迷宮“深淵”がある」
その名を聞いた瞬間、仲間の兵士が顔をしかめる。
「まさか、あの……」
「そうだ。あの勇者様達のパーティーですら、踏破出来ずに帰還したという最難関の迷宮だ」
重い声が辺りに落ちる。
兵士達は縁起でもない話を嫌うように、それ以上語ろうとしなかった。
だが、ナユの胸は熱を帯びた。
――きた!世界最難関の大迷宮!勇者でも攻略出来なかった……だと!?行くしかねぇじゃん!!
母の腕の中で「あー」と声を漏らす。
ただの赤ん坊の反応にしか見えないが、内心は全力でガッツポーズしていた。
すぐに《メモ》を開き、新しいフォルダを追加する。
《将来計画フォルダ》
・大迷宮「深淵」を踏破!!
赤ん坊が遠い目をしてにやりと笑ったのを見て、母は首をかしげる。
「ナユ……? 変な顔してない?」
父と村長は兵士達の話を真剣に聞きながらも、ナユの様子に気付かずにいた。
――よし、決めたぞ。
俺の人生の目標に“深淵”攻略を入れておく!
美少女冒険者として、必ず踏破してみせる!
「今日の記録:大迷宮“深淵”の存在を知る。勇者でも踏破出来ず、兵士達は恐れていた。だが俺は……将来必ず挑み、踏破を成し遂げると決めた……日報完了。」




