第30話《王都》
馬車が丘を越えた時、その景色は突然ひらけた。
城壁。
どこまでも続く灰色の石壁が、まるで巨大な竜が身を横たえているかのように連なっていた。
空を突く塔。
陽光を受けてきらめく屋根の群れ。
ナユの目に飛び込んできたのは、村では想像も出来なかった光景だった。
「これが……王都……」
父の声が震えていた。
母は思わず息を呑み、ナユを抱きしめる手に力を込める。
村長は長い旅の疲れを忘れたように、目を輝かせていた。
門の前には長い列が出来ていた。
商人が荷車を押し、旅人が通行証を掲げ、兵士が一人一人を確認している。
鎧に身を固めた門番の声が響き渡り、城門の巨大な扉は威圧感を放っていた。
使者の騎士は馬を進め、列を横切って門前へ。
「王命により、この者達をお連れする」
証を掲げると、門番達は慌てて敬礼し、重い扉を開いた。
馬車が城門をくぐる。
中に広がっていたのは、更に想像を超える世界だった。
石畳の大通り。
両脇に並ぶ色とりどりの店。
パンの香ばしい匂い、果物を並べる商人の声、通りを埋め尽くす人の波。
――うおおおおお!!
これ完全に異世界王都テンプレ!
人混みも露店も冒険者っぽい人も……全部ある!!
ナユは心の中で叫びながら、赤ん坊らしく「ばぶっ」と声を出した。
母は思わず笑い、「ナユも嬉しいのね」と頭を撫でる。
村長は深く息を吸い込み、しみじみと呟いた。
「ここが……国の心臓か。まさしく、人の力が集まる場所じゃの……」
ナユの胸は高鳴っていた。
この王都で何が待っているのか。
仲間との出会い、冒険の始まり、そして――将来挑む“大迷宮”への道筋。
全ては、ここから始まる。
「今日の記録:王都に到着。城壁も人の多さも圧巻。ついに物語が大きく動き出す舞台に立った……日報完了。」




