第26話《準備》
王都からの使者が現れた翌日、村はざわめきに包まれていた。
広場では人々が集まり、村長を中心に打ち合わせが進められている。
「村を代表して王都へ行くのは……村長とあの子と両親か」
「お、おい……赤ん坊を王都へ?本当にいいのか」
「相手は国王陛下の使者だぞ。断る訳にはいかん」
村人達の声には畏れと戸惑いが入り混じっていた。
だが決定は覆らない。
父は険しい顔をしながら剣を研ぎ、母は少しでも綺麗な衣を繕っている。
その横でナユは布にくるまれ、母の作業をじっと眺めていた。
――ふふ、ついに来たか。王都イベント。
俺の異世界ライフも、いよいよスケールアップってやつだな。
心の中は高揚感でいっぱいだが、口から出るのは「あー」だけだった。
使者達は村の端に野営を張っていた。
鎧の音を響かせながら警戒に立ち、夜になっても火を絶やさない。
その光景を見た村人は口々に囁いた。
「やっぱり、あの子は本当に特別なんだ……」
「加護を持つ赤ん坊を、国も放ってはおかないのか」
母はそんな声に不安を隠せず、ナユを抱きしめる。
「大丈夫よ……何があっても私が守るから」
父も力強く頷き、剣を腰に差した。
ナユはそんな両親を見て、心の奥で苦笑した。
――守られてばかりじゃなくて、俺も守る側にならないとな。
まだ赤ん坊だけど、願いとスキルがある。
この手で両親も、村も、未来も……ちゃんと守ってみせる。
「今日の記録:王都行きの準備開始。両親も村人も緊張。俺はただ……次の展開に胸を躍らせている……日報完了。」




