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第122話《入学》

 朝の光が王立学園都市レリティアの尖塔群を照らしていた。

 鐘の音が幾重にも重なり、白い大理石のホールに反響する。

 新入生達はそれぞれの科の制服を纏い、整然と並んでいた。


 冒険科の列の端、ナユ=ハルメリアは小柄な身体で背筋を伸ばす。

 遠くでミナとセバスチャンが緊張した面持ちでナユを見つめていた。


「ついに入学式……なのです!」


『ええ。ですが、落ち着いてください、ナユ。心拍数が一三〇を超えています』


「うぅ、ミラ……だって、ワクワクが止まらないのです!」


 そんなやりとりをしている間に、壇上に学園長が立った。

 深紅のローブをまとい、眼光鋭く集まった新入生を見渡す。


「――王立学園都市レリティアへようこそ。諸君がここに立つのは偶然ではない。努力と才能の結晶だ。この地で学び、競い、そして己を超えていく事を願う」


 静かな拍手が広がる。

 やがて、司会の教師が名簿を手に壇上へ。


「続いて、入学生首席代表による挨拶を行います。魔法科より――マリエル=アーシェ」


 場内がどよめく。

 銀糸のような髪が光を受け、少女が優雅に壇上へ上がった。

 その一挙手一投足に気品があり、空気そのものが彼女を中心に回るようだった。


「皆さま、ご入学おめでとうございます。私達はこれから、多くの学びと試練を共にします。互いを尊び、競い合いながら、より良き未来を築いていきましょう」


 完璧な声。完璧な笑顔。完璧な締めくくり。

 ――まさに侯爵家の娘に相応しい姿だった。


「以上です」


 マリエルが一礼して下がると、会場に拍手が鳴り響いた。


「続きまして、同率首席代表――冒険科より、ナユ=ハルメリア」


 静寂。

 誰かが「冒険科で首席?」「聞いた事ない家名だな」「地方貴族か?」と呟いた。

 ナユは真っ直ぐ前を向き、壇上へと歩み出た。

 一切の怯みも、ためらいもない。


 壇上の中央で一礼し、澄んだ声を響かせた。


「わたしの目標は――この世界で最も危険なダンジョン、深淵アビスを踏破する事なのです!」


 空気が爆ぜたような静寂。

 次いで、ざわ……っと波が走る。


「深淵……!?」

「正気じゃない!」


 教師達が顔を見合わせる中、壇上のマリエルが眉をひそめた。


「ふふ……面白いわね。あなたのような矮小な者が夢を見るのは自由だけれど、現実を知るのも学びの一つよ?」


 挑発的な声。

 ナユは胸を張り、堂々と返す。


「現実を知っても、夢を諦める理由にはならないのです!そして、わたしはその為ならどんな勉学でも惜しみません。人より何倍も努力して、夢を現実にします!ですので――」


 ナユはまっすぐマリエルを見つめた。


「圧力に負けないで、皆さんも“皆さんだけの未来”を掴みましょう!!」


 ――その瞬間、会場が爆発した。

 大歓声と拍手が鳴り響く。

 生徒達は興奮し、教師達でさえ目を見張った。


 マリエルの笑顔は、氷のように固まっていた。

 その瞳の奥に、怒りと――わずかな敗北の色が滲む。


 学園長はゆっくりと立ち上がり、厳かに言葉を重ねた。


「……良い。夢を語る者がいる限り、学び舎は生き続ける。――さあ、新入生諸君。王立学園都市レリティアへ、ようこそ!」


 鐘の音が再び鳴り響き、入学式は幕を閉じた。


「今日の記録:入学式が終わりました!マリエルさんは何か怒ってたように見えたけど、会場がすっごく盛り上がってました!でも……なんで怒ってたのかな?――日報完了!」

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