第121話《発表》
朝日が学園都市を照らす。
鐘の音が鳴り響き、整列した新入生達の間に静寂が落ちた。
「――これより、各科ならびに総合成績の発表を行う」
学園長の声が重く響く。
生徒達は固唾を呑み、掲示板に目を凝らした。
◆
【冒険科・成績発表】
1位 ナユ=ハルメリア 500点(満点)
2位 カイ 322点
3位 リド 307点
4位 サラ 301点
5位 トマ 289点
◆
静まり返った空気の中で、ミナが思わず叫んだ。
「ナユ様!一位ですっ!満点ですっ!!」
周囲がざわつく。
冒険科志望の少女が、満点で一位――それだけで十分すぎる衝撃だった。
「凄く嬉しいのです!!」
ナユは胸を張ってニコニコ顔。
その姿を見て、セバスチャンが僅かに微笑む。
「まことに見事でございます、ナユ様。……この結果、確かに“ハルメリア”の名に恥じぬもの」
「えへへ、ありがとうございますなのです!」
◆
「続いて――総合成績の発表に移る!」
学園長の声が再び響いた瞬間、場の空気が変わった。
◆
【総合成績】
1位 ナユ=ハルメリア 500点(冒険科)
1位 マリエル=アーシェ 500点(同率)(魔法科)
3位 シオン=ベルティア 497点(錬金科)
4位 レイ=クロード 489点(騎士科)
5位 リゼ=アルバ 483点(戦術科)
◆
その瞬間、空気が爆ぜた。
「はぁ!?侯爵令嬢と冒険科の奴が!?」
「まさか同率!?そんな馬鹿な……!」
視線が一斉に壇上へ向く。
そこには、白銀の髪を揺らしながら立つ少女――マリエル=アーシェ。
冷たく光る青の瞳が、真っ直ぐナユを射抜いた。
マリエルがゆっくりと階段を降り、ナユの正面で立ち止まる。
表情は笑っている。
けれど、その笑顔は刃より冷たい。
「――冒険科のあなたが、私と並ぶ結果を取るなんて。笑わせないで。学園もずいぶん落ちたものね」
ナユは首をかしげた。
「うーん?落ちたってどこがです?」
周囲が凍りつく。
誰もが息を止める。
マリエルの口角がピクリと上がる。
笑っているのに、瞳は一切笑っていない。
「そう……ずいぶん軽口を叩くのね。貴族社会では、“立場をわきまえない発言”を無礼と呼ぶのよ?」
ナユはにっこりと笑った。
「なるほど!でも、ここは学園なのです!だから皆、同じ立場なのです!」
――バチィッ!
マリエルの周囲で魔力が爆ぜた。
石畳がきしみ、空気が震える。
髪がふわりと浮かぶほどの圧力。
「……あなた、本当に私を怒らせたいのね?」
ナユは目を瞬かせる。
(ふむ……怒ってるのです?でも、前世の上司の方がよっぽどタチ悪かったのです。あれに比べたら、むしろ子どもが拗ねてるみたいでかわいいのです)
「別に怒らせたいわけではないのです!ただ――二人で一位なら、どちらが“本物”の一位か決めるしかないのです!」
観衆がどよめく。
セバスチャンがため息をつき、ミナが青ざめる。
「ナユ様っ、もうやめてくださいぃぃ……っ!」
マリエルの微笑みが、完全に消えた。
「いいわ。あなたが“そこまで言う”なら――入学式が終わったら、私があなたに“貴族の実力”を教えてあげるわ」
「受けて立つのです!」
バチン!
見えない衝撃波が二人の間で弾けた。
風が逆巻き、周囲の生徒達が悲鳴を上げる。
「くっ……学園長!二人を止めてください!!」
教師達が駆け寄る中、壇上から学園長の声が響いた。
「よい、止めるな。――これが“競い合う若者”の姿だ。どちらも見事な才覚と気骨。互いを研ぎ合い、高め合う事こそ、我が学園の理念である」
その言葉に、空気が静まり返る。
ナユとマリエルの視線が再び交差し、火花が散った。
朝の光が二人を照らす。
――こうして、ナユの“学園生活”が幕を開けた。
◆
「今日の記録:試験発表で同率一位! でもマリエルさん、めっちゃ怒ってたのです……。前世の上司の方がタチ悪かったから、むしろかわいく見えたのです。――日報完了!」
「あれ?でも貴族社会では、“立場をわきまえない発言”を無礼と呼ぶのなら、ナユ様に対して、侯爵様の令嬢様がそんな発言するのって良いんですかね?」
「確かに、侯爵令嬢とは、侯爵様の令嬢であり、現状令嬢殿が爵位を持つ立場にない……そして、仮授与とはいえ、男爵のナユ様、果たしてどちらが不敬になりうるのか……ただ、ナユ様がとても楽しそうにされてるで、気づかないふりをしましょう、良いですね?ミナ?」
「了解しました!」




