第123話《宣戦》
入学式が終わり、学生達はホールの外へと散っていった。
陽の光が差し込み、白い回廊に笑い声が響く。
だが――その中で、一際冷たい空気が流れていた。
マリエル=アーシェが、まっすぐにナユへと歩み寄ってくる。
その銀髪が光を反射し、歩く度にまるで刃のように輝いた。
「……少し話があるのだけれど?」
その声音は氷。
笑っているのに、温度は一切感じられない。
「なんでしょう?マリエルさん」
「先ほどの演説、随分と……“目立って”いたわね」
「ありがとうございますなのです!」
「褒めてないわ」
場の空気がピシリと張り詰めた。
マリエルはゆっくりと懐から白い布を取り出す。
――それは、刺繍入りのハンカチ。
彼女はそれを指先で持ち、ひらりと宙へ投げた。
白布はふわりと回転し、床に落ちる。
「決闘を申し込みます」
周囲がざわめいた。
ナユの後ろに控えるセバスチャンが、静かに前へ出る。
「……ナユ様。この国の古い習わしにございます。決闘の証として“投げられた布”を拾えば、その場で成立。拒否は名誉の放棄を意味します」
ナユはセバスチャンの言葉を聞くより早く、ハンカチを拾い上げた。
「受けて立つのです!」
マリエルの瞳が鋭く光る。
口元に浮かぶ笑みは、明らかに挑発そのものだった。
「ふふ……いい度胸ね。あなたが地面に伏す姿を想像しただけで、少し楽しみだわ」
近くの教師が慌てて駆け寄る。
「マリエル嬢!勝手に決闘など――!」
「学園規定に違反してはいません。双方の合意があれば、決闘場で正式に行えますわ」
冷静な口調。
教師は言葉を詰まらせ、ナユの方を見た。
「本当に……よろしいのですか?」
「もちろん、なのです!」
周囲の生徒達が息を呑む。
マリエルはゆっくりと背を向け、ドレスの裾を揺らしながら歩き出した。
「では――十分後に決闘場でお会いしましょう。せいぜい、後悔しないように準備なさい」
その背中が遠ざかるのを見届けながら、ナユは口の端を上げた。
「ふふ……なんだか燃えてきたのです!」
『まったく……あなたという人は、本当にトラブルを呼び寄せますね』
「違うのです、ミラ!これは成長の機会なのです!」
『……言い返せないのが悔しいです』
セバスチャンは静かにため息をつき、背筋を伸ばした。
「ナユ様、あの令嬢――魔法科の首席です。油断なさらず」
「大丈夫なのです!負けません!」
その瞳には、不敵な光。
風が彼女の髪を揺らし、陽光が決闘場への道を照らす。
――こうして、入学初日にして早くも火花が散る。
少女達の決闘が、幕を開けようとしていた。
「今日の記録:入学式の後、マリエルさんから決闘を申し込まれました!でも、わたしも受けて立ったのです!やっぱり、学園生活ってスリリングなのです!――日報完了!」




