第119話《統合》
夜の宿屋。
窓の外では風が優しく街灯を揺らし、静かな鐘の音が一度だけ響いた。
ベッドの端に座るナユは、両手を見つめながら小さく息をついた。
「……終わったのです。でも、まだ――やれるのです!ミラ起きてますか?」
その声に呼応するように、意識の奥で微かな光がゆらめく。
穏やかで、それでいてどこか凛とした声が響いた。
『聞こえていますよ、ナユ』
「先程の話の続きなのです!次の扉がどうとかって……それを教えてほしいのです!」
『それを成すには、全部で九つのスキルが必要になります。それらを統合する事で、あなただけの“ユニークスキル”が誕生します。現在、あなたの中には必須となるスキルのうち、七つのスキルが存在します。これを完全に統合するには、あと二つ――《演算》と《記録》が必要です』
「なるほどなのです!じゃあまずは――《演算》!」
ナユは目を閉じ、胸の奥に意識を沈めた。
掌に集まる光が強く輝き、部屋の空気が一瞬、静止する。
「願うのです――《演算》の力を、わたしに!」
瞬間、世界が遅れて、再度動き出したかのように感じた。
時間が引き延ばされ、思考が何倍にも広がっていく。
細やかな魔力の流れすら、明確に視える。
「……すごい。頭の中が、星空みたいに光ってるのです!一瞬で色々な事を考えれる能力なのですね」
『取得確認。《演算》、完全習得。八つ目の力が揃いました』
「では、次は《記録》!」
『《演算》を使い、あなたの《メモ》を再構築してください。ただし、莫大な魔力を消費します』
「問題ないのです!この指輪のおかげで試験の後だけど魔力は沢山ある気がするのです!」
ナユは笑みを浮かべ、胸のリソナンスリングが淡く光る。
魔力の流れが完全に整い、静かな呼吸が宿全体を満たした。
両手を組み、指先に光の紋様を描く。
「《演算》発動!メモのスキルを再構築、最適化、再刻印——完成!《記録》!」
白い閃光が弾け、部屋の空気が一瞬だけ震えた。
やがて静寂が戻り、ミラの声が響く。
『成功。これで九つが揃いました。あとは“蓄願”の願いを使って統合するだけです』
「その前に、試したいのです!」
『……何をするつもりですか?』
「九つ全部!メモを《記録》にしたみたいに“使いやすく”改造するのです!」
『非推奨。魔力が持ちません!』
「問題ないのです!」
ナユは笑いながら、《アイテムボックス》の空間を開いた。
その空間には、無数の瓶が並ぶ棚がある。
それは、転生以来“毎日の願い”で蓄えてきた千本を超えるエリクサー。
サバリネ戦くらいでしか使ってないから貯まる一方だったりする。
その数本を手に取り、飲んで魔力に変換する。
九つのスキル一つ一つの構造が再構築されていく。
ミラの声が震えた。
『ナユ……これはとんでもない事です!!神の領域に触れている可能性が……』
「問題ないのです!神様はよく知ってるのです!って事で全部、もっと便利にするのです!」
笑顔のまま、ナユは作業を続けた。
ひとつ、またひとつ――光の柱が立ち上がり、スキル達が新たな形へと変わる。
最後に《蓄願》が残った。
ナユは小さく首を傾げる。
「……三つまでしか“願い”を貯められないのです。もっと増やしたいのです」
『上限固定。拡張は不可能です、願いを使用しても不可能です。これらは神格存在により固定されています』
「神様、そういう所は抜かりなかったかぁ、なら――三つを纏めて使えるようにするのです!」
集中し、両の手を重ねる。
三つの光がひとつに融合し、強烈な輝きを放つ。
『……再構築完了。新形態確認――《蓄願・重》。複数の願いを束ね、より大きな奇跡を行使可能。単発での発動も可能』
「よし、これで全部整ったのです!《蓄願・重》発動!!3つ分の願いを一つして統合するのです!良いスキルになーれ!」
九つのスキルが同時に発動する。
宿全体が震え、床に幾重もの光の紋が広がる。
ミラが叫んだ。
『統合開始……!ユニークスキル、形成中――待って!?違う、これは――!』
ナユを中心に光が渦を巻き、形を変えていく。
『――観測変更!ユニーク階位を超過!分類変更……エクストラスキル《EXステータス》発現!!』
ナユは口元に不敵な笑みを浮かべた。
「……これを、もっと強くしたらどうなるのかな……」
『ナユ、待ってください!それ以上は未知の領域です!』
「未知?だからこそ、やるのです!人生ってのは道無き未知の積み重ねなのですから!」
光が爆ぜ、世界が唸る。エクストラスキルは新たなる段階へと昇華していく。
やがて、どこからか“声”が響いた。
それはミラとは全く違う、まるで、世界そのものの声のような……。
『――新たな階位スキルを検出。分類を更新します。スキルに名を付けてください』
「……名前、なのです?」
『推奨名称:《ナユシステム》』
「いや、自分の名前つけるのは恥ずかしいのです! えっと……じゃあ……」
ナユは頬を赤らめ、少し考えこむ。
「少しだけもじって――《ナユタシステム》!これならまだマシなのです!!」
『マシ……承認。最上位階位エクシードスキル《ナユタシステム》発現——エクシードスキルを全世界で初めて所持した事であなたに祝福を授けます……同階位以下のスキル効果を完全無効化。同階位スキルの影響は半減。更に、上位の階位が現れた場合、このスキルは進化の可能性を保持します……』
風が静まり、世界の音が戻った。
ナユは立ち上がり、夜明けの光を浴びながら微笑んだ。
「——これがわたしの、“願い”の形なのです」
「今日の記録:九つのスキルを全て改造、統合完了!本来はユニークスキルになるはずが、まさかの“エクストラスキル”へ進化!そしてさらに魔改造(?)して、世界初の“エクシードスキル《ナユタシステム》”を得たのです!……ちょっと自分の名前が入ってて恥ずかしいのです!でも、これがわたしの新しい力――。これで、どんな絶望にも負けないのです!……日報完了!」




