第117話《探索》
「――次は簡易探索試験だ。制限時間は三十分、目的は“出口に辿り着く事”。倒す必要はない、避けてもいい」
ガルドナ教官の声が響くと同時に、受験者達の間にざわめきが走った。
「また防衛系?」
「敵を無視して進めばいいって事か?」
誰もが楽観した顔をしている。
ナユは黙って前を見た。
“倒す必要がない”――その言葉の裏に、別の意味を感じていた。
石造りの扉が開く。
そこは光の届かぬ模擬ダンジョン。
冷たい空気が肌を刺す。
「第一区画、開始ッ!」
鐘の音と同時に、受験者達が一斉に駆け出した。
最初のグループは一直線に進み、暗闇の奥で落下の悲鳴。
次の者達は光魔法で道を照らし――すぐに幻影獣の群れに囲まれ、撤退を余儀なくされる。
「敵を倒す必要がない、ですか……」
ナユは静かに目を細めた。
(ならば――見つからなければいいのです)
風が彼女の頬を撫でた。
深く息を吸い、指先を前へ伸ばす。
「風よ、音を包み……闇よ、形を奪え――《シャドウメア》!」
瞬間、空気が僅かに歪む。
足元で風が渦を描き、ナユの足音が消えた。
ローブの裾が揺れても、衣擦れの音一つしない。
更に、影がゆっくりと溶け出し、身体の輪郭を飲み込んでいく。
この3年で冒険に役立ちそうな色々な魔法を作った。
バルドランの魔導書に書かれた自分が使えそうな魔法は全て使えるようにし、使えない魔法も理論だけは頭に叩き込んだ。
更に自己流だが、生前のアニメ、ラノベ知識から複合魔法の研究をし、幾つかの魔法を編み出したりしてはセバスチャンに驚かれていた。
このシャドウメアはセバスチャンがたまに使っていた隠密のようなスキルを模倣したものだったりする。
姿を薄め、気配を消し――完全な潜行。
幻影獣の眼が通路を横切る。
鼻先がわずかに動くが、風の流れが匂いを運ばない。
ナユは影の間を滑るようにすり抜けた。
(呼吸を乱さない……風を一定に保つ……)
天井のひび割れから、僅かな粉が落ちる。
その流れで、落とし穴の位置を察知する。
足を止め、風で砂を押し流すと、穴が崩れ落ちた。
「……ふぅ。危なかったのです」
目の前には石の扉。
ナユは手をかざすと、ゆっくりと開く。
光が差す。
出口だ。
「時間内突破……!やったのです!」
外に出た瞬間、観測台の試験官達がざわめいた。
「記録を確認。……戦闘回数ゼロ?」
「索敵……というか敵に遭遇してない!?」
「あの子……複合魔法を使ったのか?あれが使えるのは宮廷魔導士かどこぞの賢者くらいだぞ!?」
ガルドナが腕を組み、目を細めた。
「風と闇の融合……シャドウメア、だと。なんて発想してやがる……。ほんの子どもが、だ」
赤髪の教官は、ゆっくりと笑った。
「――合格だ。完璧な“探索者”の動きだ、ナユ=ハルメリア」
「今日の記録:探索試験、突破したのです!風と闇を合わせた新しい魔法を披露したのす!敵に見つからず通り抜けるの、すごく緊張したのです……!でも成功! ……日報完了!」
ナユからのお願い!
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