第116話《防護》
砂塵が舞う。
陽光の下、受験者達が並ぶ前で、赤髪の女教官が吠えた。
「――危機対応試験、開始ッ!!」
地面に魔法陣が展開し、中央には倒れた“救助対象”の人形。
その周囲に、六体の幻影獣が現れた。
「条件は一つ――“救助対象を守り抜け”。敵を倒す必要はない!」
その一言に、ざわめきが走る。
「は?倒さなくていい?だったら先に潰せば楽勝だろ!」
「救助なんて後回しだ、先に安全確保!」
「分担だ!三人でチームを組むぞ!」
それぞれが勝手に動き出す。
剣士は獣へ突撃し、魔導士は火球を放つ。
連携は乱れ、次第に混乱が広がっていく。
ナユは、ただ静かにその光景を見ていた。
(……皆、教官の言葉を聞いていないのです。“倒す必要はない”――つまり、“戦わなくても守れる”という事なのです)
風が髪を揺らす。
ナユは救助対象のそばに歩み寄り、両手を広げた。
「《プロテクト・サークル》展開」
淡い光が円を描く。
地面に刻まれた魔法陣が静かに脈動し、空気が震える。
「二重――四重――六重――さらに十二重、固定」
幾重もの光の層が重なり、眩い球体を形成した。
幻影獣達の一斉攻撃が飛ぶ。
爪、光弾、衝撃波――全てが光壁に弾かれ、火花のように散った。
ナユの瞳が僅かに細められる。
「外への干渉を完全遮断。魔力の流れ、安定。温度・音・圧力、全部抑制――これで完璧なのです」
外では悲鳴が上がっていた。
他の受験者達は押され、逃げ惑う。
「くそっ、なんで攻撃が効かねぇ!」
「誰か助けてくれ!」
その中心で、ナユだけが穏やかに立つ。
光の結界の中、風すら穏やかに流れていた。
「守る事。それがわたしの、試験の答えなのです」
攻撃を受け続けるも、結界はびくともしない。
やがて制限時間の鐘が鳴る。
幻影獣達は霧のように消えていった。
静寂が戻る。
光の球がすっと消え、ナユが救助対象をそっと下ろす。
教官――ガルドナは、腕を組んだまま、口角を上げた。
「見事だ。守りに全力を振るったか。……あれほどの多重展開、見たのは久しぶりだ」
隣で記録官が小声で呟く。
「魔力の安定率、百パーセント……!?ほとんど消費していません!」
ガルドナは低く笑った。
「――合格だ、ナユ=ハルメリア。危機対応の意味を、最も理解していた」
ナユは一礼した。
「ありがとうございます。守るのは、わたしの得意分野なのです」
「今日の記録:危機対応試験、無事合格!みんな戦ってたけど、倒す必要はなかったのです。わたしは《プロテクト・サークル》を十二重で展開して、救助対象を完全に守り抜きました!“守る”事こそ、冒険の基本なのです! ……日報完了」




