第115話《体力》
鐘の音が三度鳴り響く。
午前の筆記試験を終えた受験生達が、王立学園都市の訓練場に集まっていた。
午後の試験――冒険科・実技第一課題、基礎体力試験。
陽光が砂地を照らす中、ガルドナ教官が腕を組んで立っていた。
「静まれぇっ!!」
その一声で、広場が凍りつく。
声量だけで風を震わせるその迫力は、ただの教師ではない。
「今から行うのは“基礎体力試験”。生き抜く力の根幹だ。ここで根を上げるような奴は、冒険する資格はねぇ!覚悟しな!」
受験生達の背筋が伸びる。
ナユも軽く息を吐き、真っ直ぐ前を見据えた。
(……生き抜く力、ですか。バルドラン先生も、セバスチャンも、似たような事を言ってたのです)
彼女の胸の奥で、小さな緊張が熱に変わる。
最初の課題は――三種目。
一つ目は長距離走、二つ目は重量物運搬、三つ目は障害越え。
全てを通して、“持久・筋力・判断”を見られる。
試験開始の笛が鳴る。
受験生達が一斉に走り出した。
砂煙が上がり、地を蹴る音が響く。
ナユは遅れず、しかし無理をせず、一定の呼吸で走る。
足に光を宿し、魔力の循環を極限まで均す。
「《ブースト》、三重展開――安定モードなのです」
淡い光が彼女の足元を包み、身体が軽くなる。
その走りは滑るように美しく、観覧席の試験官達が目を見張った。
「おい……あの子、幼いのに魔力の制御が完璧じゃないか?」
「消費がほとんど感じられん……あれは基礎の極致だ」
ガルドナが腕を組み、口の端を上げた。
「フン……“器”が仕上がってるな。魔法の制御もそうだが――体の使い方が出来てる。……誰に習った?」
独り言のように呟く。
走り続けるナユの姿に、かつての自分の若き日を重ねていた。
(体を知る事は、生を知る事だ……あたしもそう教わったな)
やがて、ナユは先頭を走る少年を軽やかに抜き去り、ゴールを駆け抜けた。
頬には一筋の汗。
息も乱れていない。
「ふぅ……まだまだ行けるのです」
その表情は明るい。
続く二種目――重量物運搬では、片手で岩を軽々と持ち上げる姿に、周囲からどよめきが起こる。
「おい、あれ本当に六歳か!?」
「化け物かよ……」
ガルドナの瞳が細くなる。
だが、怒りでも呆れでもない。
――戦士が、己より強い者を見つけた時の光。
(面白ぇ……この娘、“本物”かもしれねぇ)
最後の障害越え。
木柱を跳び越え、網をくぐり、吊り輪を渡る。
バランスと反応速度を問う試験だ。
ナユは足元を見ず、風を読むように駆け抜けた。
途中、足場が崩れる罠を即座に察知し、空気の流れを見て回避する。
「……感知スキルの応用、ですか?」
別の試験官が感嘆する。
ガルドナは静かに頷いた。
「そうだ。あれは“見てる”んじゃない、“感じてる”んだ。本能で戦う――生まれつきの冒険者だな」
やがて、全ての受験者がゴールした。
試験終了の鐘が鳴る。
ナユは深呼吸をし、空を見上げた。
木漏れ日の中に、白い鳥が一羽、ゆっくりと舞い上がる。
(先生、セバスチャン、見ててください。わたし、ここまで来たのです……!)
その瞬間、胸の奥で微かな音がした。
――長らく沈黙していた声が、微かに揺らぐ。
『……システム、同期率安定。感知機能……再起動完了』
(ミラ!?ひさしぶりなのです!大丈夫なの!?)
『問題ありません。観測精度、以前より向上――学園環境の適応を検知。……ナユ、次段階への準備、進行中です、更なるアップデートの為もう少しの間、沈黙しますがよろしいですか?』
ナユは小さく笑みを浮かべた。
風が吹き抜け、髪を揺らす。
「うん、大丈夫なのです!ミラの成長楽しみにしてるのです!」
「今日の記録:冒険科の実技・体力試験!長距離・運搬・障害越え、全部こなしたのです!セバスチャンの修行と、バルドラン先生の教えのおかげで楽勝でした!……そして、ミラが“目を覚ました”けど、すぐにアプデの為眠りについたみたいなのです!次は第二試験、危機対応!……日報完了!」




