第114話《挑戦》
試験会場は王立学園都市の中央講堂。
円形の天井には魔法灯が並び、青白い光が一面を照らしていた。
受験生のざわめきと羽ペンの擦れる音が、広い空間に反響している。
ナユは静かに席に座り、手元の試験用紙を見つめた。
筆記試験――魔法理論、基礎魔力運用、魔物知識、そして応用構成式。
内容は幅広く、それでいて正確さと応用力が問われる。
(……ふふ、問題を見ただけで、なんだか懐かしい気がするのです)
ペン先を軽く回し、解答欄に迷いなく記入していく。
文字が流れるように並び、周囲の生徒がちらりと視線を向けた。
幼い少女の外見に似合わぬ落ち着き――だがナユの集中は揺るがない。
「魔力干渉率の計算……うん、三歳の時にバルドラン先生が言ってたのです。“魔法は数字ではなく、心の波形で覚えなさい”って」
思い出したように小さく呟き、手を止めずに解を導く。
魔力式の展開、属性相関、複合理論。
どの問題も彼女の前では紙の上で解けるパズルのようだった。
――だが、その時。
ふと、胸の奥に微かな違和感が走る。
「……ミラ、近頃は静かすぎるのです」
小さく呟く。
返事はない。
いつも頭の奥で響いていた微かな気配――それも、ひっそりと沈んでいる。
(……まぁ、たまには休むのです)
ナユは微笑み、再び試験用紙へと視線を落とした。
魔力感知の設問、応用陣式の推論。
彼女の筆は止まらない。
やがて、試験終了の鐘が鳴るよりも早く、全ての問題を解き終えた。
「――ふぅ。これで筆記は終わり、なのです」
ペンを置く。
周囲ではまだ多くの受験生が必死に書き続けていた。
中には焦りから小声で詠唱を口にし、簡易魔法で思考補助を試みる者もいる。
だが、ナユは深呼吸をして、静かに目を閉じた。
試験官の一人がその様子を見て、小さく囁く。
「……あの子、魔力の波がほとんど動いていないな」
隣の試験官が頷く。
「集中時に通常は波形が乱れるものだが……まるで、最初から“完璧な安定域”にいる。常時制御か、あるいは――」
言葉が途切れる。
その視線の先、ナユの周囲の空気がわずかに揺らめいた。
力を抑えきれないわけではない。
“あまりにも自然”に、魔力が世界と共鳴しているのだ。
「やはり異質ですね……この子、ただ者ではない」
試験官達が小声で交わす。
だがナユはそれを意識することもなく、静かにペンを片付けた。
(筆記は、完了なのです。次は――実技試験、ですね)
柔らかい光が講堂の窓から差し込む。
それはまるで、挑戦の始まりを告げる“黎明”のようだった。
「今日の記録:筆記試験、全部解けたのです! 難しい問題もあったけど、落ち着いて出来たのです。ミラは近頃静かだけど、きっと大丈夫!明日は実技試験――魔法も身体強化も、全部見せてやるのです!……日報完了」




