第113話《試験》
朝靄の残る王立学園都市。
白亜の塔が霧を貫き、中央広場では数百人の若者たちが列を成していた。
その視線の先に、七つの旗が風に揺れている。
魔法科/騎士科/戦術科/付呪科/鍛冶科/錬金科/冒険科
それぞれが自らの夢と野心を胸に、旗の下へと集まっていく。
魔法科は整然と列を作り、騎士科は鎧を打ち鳴らして気勢を上げる。
錬金科は道具袋を抱え、付呪科は魔導陣を確認し、戦術科は地図を広げて議論していた。
――そして、ひときわ騒がしいのが冒険科。
粗野な笑い声と大声が響き、まるで市の酒場のようだ。
「おーい!番号三百番台、こっちだ!集合が遅れたら減点だぞーっ!」
怒鳴り声を上げたのは、筋骨たくましい中年の女性。
短く刈り込んだ赤毛と、獣のような眼光。
冒険科主任試験官
――ガルドナ=ヴァリス。
元S級冒険者にして、この場を仕切る教官である。
「いいか小僧ども嬢ちゃんども!ここは“生き抜く科”だ!学問は後回し!死にたくなけりゃ、まず生きる覚悟を見せろ!!」
広場の空気が一瞬で張り詰めた。
その中で、ナユは静かに列の最後尾に並ぶ。
淡い金髪を風が揺らし、瞳に真っすぐな光を宿す。
「おい、そこの嬢ちゃん。えらい、綺麗な顔してんな?お前も冒険科志望か?」
「はい。ナユ=ハルメリアです!」
教官の眉がぴくりと動いた。
その名が伝わった瞬間、周囲がざわめく。
「ハルメリア……?男爵だって聞いたけど……」
「うそだろ、貴族が冒険科?罰ゲームか?」
ひそひそ声が飛び交う中、ガルドナ教官は口角を吊り上げた。
「――ははっ!面白え。爵位なんざ戦場じゃ紙切れだ。だったら見せてもらおうじゃねえか、“男爵”の覚悟を!」
教官が指を鳴らすと、空中に魔導陣が展開した。
机と筆記用紙が次々と現れ、受験生達の前に並ぶ。
「第一試験――筆記!地図読解、魔物知識、サバイバル理論。机にかじりついてでも生き残れ!」
「えー!実戦じゃないのかよ!」
「うるせぇ!!さっさと書きやがれ!!」
ナユは深く息を吸い、ペンを握る。
紙面を見た瞬間、バルドランの授業の記憶が蘇った。
(落ち着くのです……先生の教えを思い出すのです)
周囲の受験者が慌ててページをめくる中、
ナユのペン先だけが、音もなく流れるように走っていた。
鐘の音が鳴り響き、学園都市の空に反響する。
冒険科の試験――始まったのだ。
「今日の記録:王立学園都市で入学試験が始まりました!七つの科があって、どこもすごい人の数!わたしはもちろん“冒険科”なのです。筆記はたぶん大丈夫、先生の授業の成果なのです!……日報完了!」
「あと、わたしまだ、男爵じゃないんだけどなぁ……」




