第112話《到着》
朝靄の残る街道に、蹄の音が軽やかに響く。
宿場町を出立した馬車は、柔らかな風を切りながら丘を越え、広がる森を抜けていった。
ナユは窓辺に手を添え、胸元のブローチをそっと握る。
母から受け取った「守りのブローチ」。
淡い光を放ち、心の奥まで温かくしてくれる。
「お母様……ちゃんと見ててくださいなのです」
朝の光が金の髪を照らす。
セバスチャンが手綱を整え、ミナが地図を確認していた。
「もうすぐ王立学園都市の外壁が見えるはずです」
「……本当に大きな街なのです」
遠くに、白銀の魔導障壁が見えてきた。
空を覆うほどの巨大な光壁が、学園都市全体を包んでいる。
その内側に、塔のような校舎群、風を受ける旗、魔導列車のレールが輝いていた。
胸の鼓動が、少しだけ速くなる。
◆
入学試験の列は長かった。
冒険者志望、騎士候補、魔導師の卵――皆が緊張した面持ちで順番を待っている。
門前では衛兵が一人ずつ確認をしていた。
「身分と来訪目的を」
順番が来た。
ナユは一歩前へ出る。
胸を張り、まっすぐに衛兵を見上げた。
「王都より参りました。ナユ=ハルメリアです。冒険科の受験に来ました!」
一瞬、周囲の空気が止まる。
衛兵の目が見開かれ、他の受験者たちがざわついた。
「……“ハルメリア”!?陛下より直授された、あの男爵家の――」
ナユは慌てて両手を振った。
「仮授与なのです!成人までは正式じゃないのです!」
その素直な笑顔に、衛兵は思わず吹き出して笑った。
やがて姿勢を正し、深く敬礼する。
「……了解しました、ナユ殿。ご武運を!」
「ありがとうございます、なのです!」
その声が門の向こうへ響いた。
背後でセバスチャンが静かに微笑む。
ミナも感極まったように手を握りしめた。
「ナユ様、今の名乗り……とても立派でした!」
「うん……緊張したけど、なんだか少し大人になれた気がするのです」
魔導障壁の内側へと一歩を踏み出す。
風が頬を撫で、光が髪を揺らした。
そこには、無限の可能性が広がる“学びの都”。
(ここからが――本当の始まりなのです)
「今日の記録:ついに王立学園都市に到着!門の衛兵さんが“ハルメリア男爵!?”ってびっくりしてたけど、仮授与だから気にしないのです!次はいよいよ入学試験……緊張するけど、がんばるのです! ……日報完了!」
◆
「あれ……??男爵様が、冒険科……!?!?」




