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第112話《到着》

 朝靄の残る街道に、蹄の音が軽やかに響く。

 宿場町リュミエを出立した馬車は、柔らかな風を切りながら丘を越え、広がる森を抜けていった。


 ナユは窓辺に手を添え、胸元のブローチをそっと握る。

 母から受け取った「守りのブローチ」。

 淡い光を放ち、心の奥まで温かくしてくれる。


「お母様……ちゃんと見ててくださいなのです」


 朝の光が金の髪を照らす。

 セバスチャンが手綱を整え、ミナが地図を確認していた。


「もうすぐ王立学園都市レリティアの外壁が見えるはずです」


「……本当に大きな街なのです」


 遠くに、白銀の魔導障壁が見えてきた。

 空を覆うほどの巨大な光壁が、学園都市全体を包んでいる。

 その内側に、塔のような校舎群、風を受ける旗、魔導列車のレールが輝いていた。


 胸の鼓動が、少しだけ速くなる。



 入学試験の列は長かった。

 冒険者志望、騎士候補、魔導師の卵――皆が緊張した面持ちで順番を待っている。

 門前では衛兵が一人ずつ確認をしていた。


「身分と来訪目的を」


 順番が来た。

 ナユは一歩前へ出る。

 胸を張り、まっすぐに衛兵を見上げた。


「王都より参りました。ナユ=ハルメリアです。冒険科の受験に来ました!」


 一瞬、周囲の空気が止まる。

 衛兵の目が見開かれ、他の受験者たちがざわついた。


「……“ハルメリア”!?陛下より直授された、あの男爵家の――」


 ナユは慌てて両手を振った。


「仮授与なのです!成人までは正式じゃないのです!」


 その素直な笑顔に、衛兵は思わず吹き出して笑った。

 やがて姿勢を正し、深く敬礼する。


「……了解しました、ナユ殿。ご武運を!」


「ありがとうございます、なのです!」


 その声が門の向こうへ響いた。

 背後でセバスチャンが静かに微笑む。

 ミナも感極まったように手を握りしめた。


「ナユ様、今の名乗り……とても立派でした!」


「うん……緊張したけど、なんだか少し大人になれた気がするのです」


 魔導障壁の内側へと一歩を踏み出す。

 風が頬を撫で、光が髪を揺らした。

 そこには、無限の可能性が広がる“学びの都”。


(ここからが――本当の始まりなのです)


「今日の記録:ついに王立学園都市レリティアに到着!門の衛兵さんが“ハルメリア男爵!?”ってびっくりしてたけど、仮授与だから気にしないのです!次はいよいよ入学試験……緊張するけど、がんばるのです! ……日報完了!」



「あれ……??男爵様が、冒険科……!?!?」

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