第108話《選択》
夜風がカーテンを揺らしていた。
机の上には、開きっぱなしの封筒と、王立学園都市レリティアのパンフレット。
両親には「焦らず考える」と言ったけれど、ナユの胸はずっと高鳴っていた。
「……気になるのです。やっぱり」
ページを開くと、細かな文字が並んでいた。
王立学園都市レリティア――その名に恥じぬほど、多彩な学科が記されている。
魔法科/騎士科/戦術科/付呪科/鍛冶科/錬金科/冒険科
ナユは指先で“魔法科”の文字をなぞった。
それは最も名誉ある科。
貴族の子弟が多く集い、魔法理論と高等術式を学ぶ場所。
自分にふさわしいのは、きっとここ――そう思うのが自然だ。
けれど、ページをめくる指が止まった。
「……でも、わたしが目指すのは“深淵”なのです」
小さく呟く。
頭の中に、サバリネとの死闘がよみがえった。
あの時、魔法だけではとても苦戦を強いられた。
もっとわたしが強かったら、先生やリカちゃん、セバスチャン……皆が傷つかなくて済んだのに。
魔法を極めるだけでは、“深淵の底”には辿り着けないと思う。
戦いの中で感じた限界。
三歳の頃から、それを補う為に身体を鍛え続けてきた。
十二重の《ブースト》も、《ルミナスヒール》も。
魔法と肉体、両方を磨いてきた結果――ようやく“形”になった。
「足りないのは……魔法でも力でもないのです。本当の“冒険の力”……生き抜く力なのです」
視線が、ひとつの行に止まる。
《冒険科》――実戦・探索・生存・戦術応用を学ぶ総合学科。
庶民の子が多いと書かれていた。
貴族の娘が選ぶような場所ではない。
けれど、ナユは迷わなかった。
「決まり、なのです。……わたしは、ここに行くのです」
その声は、穏やかに、しかし強く響いた。
ページの上で、王立学園都市レリティアの紋章が光を反射する。
その輝きは、未来の道を示す灯火のようだった。
「今日の記録:先生から届いたパンフレットを読みました! 魔法科とか騎士科とか、いろんな科があるのです。でも、わたしが目指すのは“深淵”。その為に必要なのは、“生き抜く力”なのです! ……日報完了!」




