第107話《黎明》
朝の陽が差し込み、屋敷の食堂を金色に染めていた。
窓際の席で、ナユは両手を合わせる。
「いただきます、なのです!」
食卓には温かいスープと焼きたてのパン。
ミナが手際よく料理を並べ、セバスチャンが微笑を浮かべる。
柔らかな湯気が立ち上り、食堂は穏やかな香りに包まれていた。
「ナユ、おはよう。今日も朝から元気そうだね」
母の言葉に、ナユはにっこりと頷いた。
「うん!お外で少しだけ身体を動かしてきたのです!」
父はパンをちぎりながら、ふと目を細めた。
「……見違えたな。もう立派なレディだ」
その言葉にナユの頬がほんのり染まる。
スプーンをもじもじと弄りながら、俯いた。
「れ、レディ……なのですか?」
「ええ。仕草も、話し方も。ねぇ、あなた?」
「うむ。気づけばあの子も六歳か。時の流れは早いものだな」
温かい空気が食堂を包む。
ミナは嬉しそうにお茶を注ぎながら微笑んだ。
「お嬢様は毎朝の訓練も欠かさずに。セバスチャン様も感心なさってましたよ」
「お嬢様の成長は、我々の誇りにございます」
言葉を受け、ナユは胸を張る。
「ふふ、みんなが支えてくれるからなのです!」
その笑顔に、家族全員が目を細めた。
――その時だった。
廊下から足音が響く。
執事の一人が慌ただしく駆け込んできた。
「失礼いたします!速達でございます!」
セバスチャンが封筒を受け取り、丁寧に確認する。
「……差出人、バルドラン殿。お嬢様宛です」
「えっ!?先生から!?」
ナユは慌てて席を立ち、封筒を受け取った。
白い封蝋には、懐かしい杖と星の紋章。
ナユは指先で封を解き、ゆっくりと紙を広げる。
手紙には、流れるような筆致でこう書かれていた。
『ナユへ。この六年で、お前は“力”を完全に制御出来るようになったと聞いた。しかし、魔法とは力を競う術ではない。心を磨くものじゃ。心は他者と交わる事でこそ、真の輝きを放つ。ゆえに――そろそろ“学ぶ場”を考える時期かもしれん。扉はいつでも開かれておる。――バルドランより』
封筒の奥には、一冊のパンフレットが入っていた。
金の箔押しで、こう記されている。
《王立学園都市レリティア──未来を担う才覚の為に》
ナユは息をのんだ。
ページを開けば、魔導塔のような建築や、魔法陣の描かれた広場の絵。
その全てが、未知の輝きを放っていた。
「……これが、“学ぶ場”……なのですか」
ミナが興味深そうに覗き込み、母が柔らかく微笑む。
「きっと素敵な場所ですよ、ナユ。あなたにぴったりだわ」
父も頷いた。
「だが焦る事はない。学ぶとは、自分で選ぶ事だ」
ナユは小さく頷き、パンフレットを胸に抱いた。
「うん……もう少しだけ、考えるのです」
窓の外で、風が木々を揺らした。
陽の光が差し込み、パンフレットの金文字が一瞬だけ輝く。
それはまるで、新しい朝の“黎明”を告げる合図のようだった。
「今日の記録:先生から速達が届いたのです! 中には“王立学園都市”のパンフレット!きっとすごい場所なんだろうなぁ……でも、まだ焦らないのです。進路って大切だからね ……日報完了!」




