第104話《転輪》///コードZ:Episode.01《目覚めし者》
午後の教室。
陽だまりの中で、一人の少年が机に突っ伏していた。
「……日比野、また寝てるよ」
前の席の女子が呆れたように笑う。
黒板の文字はぼやけ、教師の声は遠い。
少年――日比野 善は、今日も夢の中を漂っていた。
将来の夢もなく、努力も嫌い。
ただ、何となく日々を過ごしている。
そんな「普通すぎる高校生」だった。
(……あと五分だけ……)
半分眠ったままそう思った、その瞬間。
教室の空気が、急に凍った。
◆
「……え?」
空気が揺れる。
黒板がきらめき、床一面に光の模様が走った。
眩しさに目を細める。
気づけば、机も椅子も浮かび上がっていた。
教室の中央に――青白く輝く陣。
教師の声が悲鳴に変わる。
生徒たちが叫び、窓ガラスが砕け散る。
「う、うそ……!なにこれ!?」
「助けて!!」
善は立ち上がろうとするが、足が動かない。
身体を縛るような“何か”が、全身を絡め取っていた。
その時、耳の奥に声が響いた。
──《……召喚陣……?》
知らないはずの言葉。
けれど確かに理解出来た。
「……誰だ、今の声……?」
頭の中に、何かが流れ込む。
剣を振るう腕。
血の匂い。
神域の光。
紅の瞳の“敵”。
そして、最後に見た――眩い閃光。
『……ゼノア・オルディス……』
その名が脳裏に響いた瞬間、全身が焼けるように熱くなった。
「う……ぐっ……あ、頭が……!」
崩れ落ちた善の瞳に、青と白の光が混ざり合う。
視界が反転し、心の奥で何かが目を覚ます。
記憶が、蘇る。
剣を掲げ、闇を裂いた勇者の記憶。
「……俺は……ゼノア……?」
呟きと同時に、光が一層強くなる。
生徒達の姿が消え、床が崩れ落ちる。
──『もし再び相まみえる時が来たら、その時は……俺の手で終わらせてやる。』
遠い記憶の声が、耳の奥で囁いた。
善は、目を見開いた。
光が世界を呑み込む。
「――」
声なき叫びは、光の中に溶けた。




