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優しい月と懺悔の言葉


少し冷たい空気と優しい月明かりが照らす中をゆっくりと歩きながら、幸風は考えていたことを口にした。


「…華琳ちゃん、私はずっと君に言えなかったことがあるんだ。」

「言えなかったこと…ですか?」

「うん。私が華琳ちゃんの前で龍の姿に戻らない訳。その理由について、まだ何も話していなかったよね。…その訳は、私が華琳ちゃんと出会う前まで遡るんだ。」


「…少し、回り道をしよう。華琳ちゃんには聞いてもらいたいんだ。聞いてもらいたい…というか、懺悔のようになってしまうかもしれないけど。」


「華琳ちゃんと出会った日より随分前…何年かわからないほど前、幼い私は人に変化するのが苦手だった。自由に飛べる翼がなく便利な鋭い爪もない、非力な人の姿が嫌だった。そんな中、いつだったか…私に友達ができた。彼は私と同じくらいの幼い少年だった。私は彼と色々な話をして、色々なところに遊びに行った。」


「だけど彼の周りの大人たちはいい反応をしなくてね、いつも私と彼を離そうとしていたんだ。そんなある日、彼といつものように遊んでいると、大人達が彼を連れ戻しに来た。驚いた私は嫌がる彼を大人達から守ろうとして、爪を立てて威嚇しようとした。振りかぶった先にいたはずの大人達が逃げたのは彼の後ろで、私の爪が切り裂いたのは彼の柔らかい体だった。」


「彼の血にまみれた自分の手を見て、自分がとても穢らわしく感じて、こんな体を持って生まれてきた自分が憎かった。私がいたから、こんな姿だったから彼を殺してしまった。そう思って、中途半端な変化のままその場から飛んで逃げ出したよ。私は、彼の葬式に出席することも出来ず、ただ遠くから眺めていることしか出来なかった。」


「…その時からかな、私が龍の姿に戻るのが怖くなったのは。龍の姿に戻った時、また大切な誰かを傷付けてしまう。大切なものを無くしてしまうくらいなら非力な体のままでいようと、そう思ったから。だから君の前で一度も龍の姿に戻ったことはないし、多分これからもそうだ。」


「臆病なんだ、私は。龍の姿なら君を大きな恐怖から守ることができる力がある。だけど、その力で君を失くしてしまう可能性もない訳ではない。そう考えた時に、とても怖くなる。私を救ってくれた君を失う以上に怖いものはないんだ。」


「…これが、私が変化を解かない理由だよ。…少し、嫌な話になってしまったね、ごめんね。」

「いえ…幸風さんは、ずっと深い悲しみを抱えていたんですね。色んな事を経験して、色んな事を考えて今の幸風さんがある…だから、私は幸風さんの過去を知って嫌いになることはありませんし、話してくれた事がとても嬉しいです。幸風さんの思いや悩みを教えてくれて、そのことに対して一緒に思いを乗せる事を許してくれたことが。幸風さんがいいと思える時まで、ずっと一緒にいます。」


そう言って微笑む彼女を見て安心して、深く息をついた幸風は空を見上げた。


「…今度、君を街の外へ連れ出そう。私の背中に乗って、遠くまで出掛けよう。」

「はい。楽しみです、すごく…龍に戻った幸風さんと、色んな景色を見たいです。」

「よかった。君が怖がらないように、ゆっくり飛ぶよ。…ありがとう。」


優しい月が帰り道を明るく照らし、微笑んで歩き出した2人を包み込む。悲しい過去を抱えた2人を癒すように。

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