4.職業を割り振ったら作業指示を出していこう!(5)
さて、家事労働班への指示出しが終われば、残るは農民チームである。
現状農業はできないので、農民チームの作業はおおよそ屋内。つまりは温室栽培である。
こちらは昨年に引き続き、雑用班に出てもらう。
と言っても、負傷者を集めた雑用班四人のうち、二人は実は冬の間に回復済み。残るは回復の見込みのない偏屈老人トーマスと、絶賛トラウマと格闘中のアントンだ。
アントンは職場復帰に向けて努力をしてはいるものの、人の気持ちはそう簡単には変えられない。完全復帰までは今しばらくの時間が必要らしいとのことで、現在もトーマスとともに屋内仕事を請け負っている。
当人は申し訳なさそうだけど、屋内仕事はそれはそれでやることが多い。雑用班が減った今、偏屈トーマスと共同作業ができる存在は意外に貴重だ。
今後は魔物狩りも再開、それが終われば一般の獣狩りも再開。狩りのための道具作りや修繕の仕事は増えていく。彼にはこれらの仕事をしながら、ゆっくり自分と向き合っていってもらうとしよう。
しかしまあ、今はそれらの仕事もさて置いて、農業をしてもらうんですけどね。
道具作りは後回し。修繕作業も片手間で。これから依頼するのは、今後の村の行く末を左右する最も重要な仕事なのである。
それ、すなわち――――。
「…………さ、栽培実験、ですか?」
やってきたのは雑用班の作業部屋、遊戯室。
相も変わらず日当たりが悪く、暖炉の火も小さな冷え冷えとした部屋で、革を打っていたアントンが手を止めて首を傾げた。
ちなみに、隣で作業中のトーマスは手も止めない。こっちの話を聞いているのかどうかもわからない。これだから偏屈老人は。
そういう意味でも、伝達係のアントンがいるのは割と助かる。
前までのアントンは伝達係には不安だったけど、今は割と私とは話をしてくれるからね。
このあたりは、やっぱり良い変化の傾向なのだろう。私もありがたく、トーマスを横目にアントンに話を振ることができるわけである。
「そう、実験。前に使っていた温室、空いているでしょう?」
「ええと、はい。……あの病気の流行で、一度すべて枯れてしまって…………」
私の問いに、アントンが申し訳なさそうに目を伏せる。
たしか病気でバタバタ倒れている間に世話をする人間がいなくなって、温室の植物が全滅したんだよね。その後はトビーの騒動、からの私の誘拐で慌ただしく、温室栽培を再開する暇がなかった。
そうこうしているうちに四月も半ば。これから露地栽培をしようという時期に、わざわざ低効率で費用対効果の悪い温室栽培を再開する理由もない。おかげで温室チームは解散。冬を支えた温室栽培もまた、魔物狩りと同じく役目を終えて、次の冬まで凍結となったのだった――。
と言いたいところだけど、ここで温室栽培の役目が再浮上。
それこそが、この栽培実験なのである。
「あなたたちには今日から、最優先で行商人の種を育ててもらうわ。露地栽培に先駆けて、できるだけ情報を得てちょうだい」
排水機能付きの耕地は、単に瘴気の軽減をさせるに過ぎない。
作物が育つためにはもっと複雑な条件があり、複雑な要求が存在する。
だが、私たちはアルドゥンの種について何も知らない。
この三種類の種がどうやって育ち、どんな葉をつけるかもわからない。
だったら調べてみるしかない。
猶予は耕地が完成するまでの二週間。この間に温室を用いて先行栽培。最低限、発芽条件だけでも見つけ出しておく必要があった。
「三つの種それぞれで、条件を変えながら記録を取る。必要なのは水の量に日照量、温度、肥料と瘴気量。何日くらいで芽が出たか、どんな芽だったか、大きさと色、葉が出たらそれも――――」
「ま、まま、待ってください!」
つらつら伝える私を遮り、アントンが慌てたような声を上げた。
どうしたのかと目をやれば、彼は身を縮めて震えている。
顔に浮かぶのは、追いつめられたような不安顔。以前までのアントンに戻ったかのように、彼は怯えた顔でこう言った。
「む、無理です……すみません……! でも、僕たちだけではそんなに覚えきれません……!!」
…………さて。
ここで問題になるのが、村人たちの教育不足だ。
今回育てるのは見知らぬ種。村人たちの経験から来る知識や知恵には頼れない。
新規で情報を得るためには、どうしたって無数のデータを捌く必要がある。それも今回は三種類。時間がないので一つずつ順番にとはいかず、よーいドンで一気に育てていかなければならない。
これを頭だけで処理するのは難しい。よほど記憶力に優れた人間でもない限り、日々の経過を『覚え続ける』のは不可能だろう。
だから人間は記録を取る。頭の代わりに紙に書き留め、思い出す代わりに読み返し、必要であれば他者と共有するのだ。
だが、村人たちにその選択肢はない。
なぜなら彼ら貧しい平民であり、アーサーを除いて教育を受けることができなかった。
読み書きを学ぶことのできなかった人々なのだ。
栽培実験をしたところで、アントンに記録は取れない。
トーマスに視線を向けるが、無言で鼻を鳴らしたあたり、おそらく彼にも難しいのだろう。
私の部下たちなら読み書きはできるが、彼らには彼らで仕事がある。そもそもすでに仕事の割り振りは終え、新規に投入できる労働人口は村にはない。
ならばどうするか。
労働人口以外を投入すればいいのである。
「大丈夫、そこは考えているわ。要するに、記録係がいればいいんでしょう?」
「…………はい?」
と戸惑うアントンをよそに、私は扉の外に向けて手を叩いた。
さあ、記録係のみなさん、カモン!
「おーじょさま、じゃなくてりょーしゅさま、おれたちがする仕事ってなーに?」
「えーと、まいにち種にお水をあげて、日記に残せばいいってこと、よね?」
「あの、よ、よろしくお願いします。が、がんばります……!!」
というわけで、ここがレンタル子供集団の使いどころ。
やってきたのは元気いっぱいに何もわかっていないトビー、いまいちわかっていない感じのアン、一人だけ責任感あふれるケイティの三人組。平均年齢は実に十歳。ど真ん中児童労働。
しかし、彼らはこの冬いっぱいを使って読み書きを学んだ、村の数少ない精鋭だ。
労基法などなんのその。これから少なくとも二週間、子供たちには村のために働いてもらうといたしましょう。
そして大人であるアントンとトーマスには、御しがたいキッズのお守りも兼ねてもらうことになります。
トビーあたりが大暴れすると思うけどよろしくね!
押し付けるようににっこり笑えば、トーマスが厄介ごとを押し付けられたとでも言いたげに天を仰いだ。
【開拓村 ステータス(5年目仲春)】(更新)
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【職業】
農民:2人(うち負傷者2人)
研究者:3人(うち子供3人)
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