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不審、うつつにて

良くない夢を見た。


見知った場所で、怪物に人間が○される夢。


ただの悪夢だと言ってしまえばそれまでだが、普段より気持ち悪い要素というものがある。

それは見知った場所、見知った人間、理解できないモンスター。


基本的に夢というのは不条理だ。

どうなるか見当もつかない。

そこに先に述べた要素が加わると余計後味の悪さが増すってもんだ。


しかし本当に夢ってのは突拍子がない。

時には現実世界で何の取り柄もないように奴が急にヒーローになったりもする。

さっきの夢だってそうだ。

どう見ても瑞希としか思えない女の子がナイフを振り回していた。


本当に笑えない。


時刻は深夜1時30分。

また微妙な時間に起きたもんだ。

嫌な夢を見ると決まって体力を消耗する。

お茶でも飲んでさっさと寝よう。


ベッドを降りて1階へ向かう。

目指すは冷蔵庫。

リビングに入ると片方だけカーテンが開いていた。


ん、閉め忘れてたのか。

窓の鍵も心配になり、一応チェックする。

うん、大丈夫だーーー


え?


開いた片方のカーテンから表の通りが見える。

早いとこ閉めて喉を潤したいところだ。


ただ、その光景が、なぜか、とてつもなく、嫌な想像をさせられたから。


カーテンを勢い良く閉め、自室へ急いだ。

ベッドに入り毛布を被る。

そのまましばらく微動だにできなかった。


瑞希の家はうちの斜め前。

窓からはぎりぎり見えないが、徒歩数十秒といった至近距離に位置している。

夜割と遅くまでうちにあいつがいるのも、帰宅時間をちゃんと考慮してのことだ。


いや、そんなことはいい…。

問題は、この時間に。


家に帰る瑞希を目撃してしまったことだ。


なぜ?

1時半だぞ?


うちから家に帰る時、夜は危ないからね〜とか言ってたまに家に送らせるやつだぞ?


わからない。

自動販売機にでも行ったのだろうか。

塀のせいで胸から下は見えなかったから、その可能性は十分あり得る。


まあ考えたところで仕方がない。

明日聞くことにしよう。


出来る限り今のことは忘れて眠りに就くことに専念したつもりだったが


夢での出来事が頭から離れなかった。


「おっはよーう!」


玄関を開ける音と共に元気よく放たれる瑞希の声。


「おはよう」


味噌汁のお椀をテーブルに置き、振り返る葵。

タイミングよく朝飯時にやってきた。


「おお、おはよう」


キッチンから挨拶を返す。

意識しないと決めたつもりだったが、どうしても昨日のことが頭をよぎる。


「あ、楓の番かな?今日は和食なんだね〜」


マイ茶碗を食器棚から出しセルフで炊飯器から山のように盛り付ける瑞希。


「うわぁ…なんか今日多くない?」


軽く引かれていた。

葵とは持っている茶碗からしてサイズ感が違うのだ。

その上朝から大盛りとあっては女子としての面目丸つぶれである。普通は。


「うーん。今日はね、ちょっといつもよりお腹空いてるんだー」


「ちょっと、ね…」


いつもよりお腹が空いてる?

それは…なんでだ。

昨日のことがあったからか。

…駄目だ。考えてしまう。

気にするな!

自分に暗示をかけたい。


「ねえ」


ふいに隣から声をかけられる。


「うおっ」


瑞希だった。


「何してるの?」


色のない瞳で尋ねてくる。


「え、いや」


「昨日の、こと?」


ッ!?

心臓が飛び出るかと思った。

なんだ、なんだいきなり。

まさかバレてたのか?

俺が窓越しに見てたのを?

いやいや別にそれはいいだろう。

それとも何か訳ありのことをしてたのかあの時はやっぱりーーー。


「って、なあに?」


屈託のない笑みで茶碗をパスしてきた。


「え、あっ、え?」


しばし混乱。

とりあえず茶碗はおかわりだろうか。

炊飯器を開いてついでやる。


渡してあげた。

ご飯を見る目がいかにもスイーツを目にした女子だ。

何か間違っている。


「声に出てたよ、また」


受け取るや否やテーブルに小走りへ駆けていった。


ああ。

そういうことか。


完全に無意識だからな、この癖は直さないと。


一人うんうんと頷く俺。


「お兄ちゃんね、なんか朝起きた時から変なんだ。そわそわしてるっていうか、挙動不審っていうか」


ひそひそと瑞希に話しかける葵。


犯罪者か俺は。

っていうかそうなのか俺って自分が思ってるより考えてることが外にでやすいのか?


「たぶんそういう時期なんだよ。思春期、かな?」


…おい。

それは違うと思う。

思春期かもしれんが挙動不審者と掛け合わせるな。


「なんでもねーよ。気にすんな」


自分の分の茶碗を持ち、食卓に参加する。

ご飯、味噌汁、漬物、たまご焼。

THE・シンプル朝ごはん。


「ふぉうらの?」


所狭しとつめ込まれたご飯と漬物を含んだまま一生懸命喋る。


瑞希…。

やっぱり飯時のこいつは小学生以下だ。


「ご飯はよく噛んで食べましょう」


葵が人差し指をピッと立て、先生のような口調で注意した。


「ふぁい…」


しゅんと項垂れる。

いや、ていうかそこか?


こいつらの関係性もよくわからんな。

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