議題、祭りのロマン
「それでだな、団地妻喫茶なんてどうだ?」
「やっぱりメイド喫茶だろ」
「お前古いやつだな。メイド喫茶ブームはもう下火じゃねえ?」
「バーカ。そりゃお前わかってねえよ?俺が言ってるのはメイドが奉仕してくれる喫茶店だ。メイド・コスプレ喫茶じゃねえ」
「あーん?同じじゃね?」
「違う。断じて違う。先入観がいかんのだ。そもそもメイドは家事労働の補助してくれる就業形態を言う。主人と戯れにじゃんけんしたりとかケチャップ文字に命かけたりとか一緒にピースして写真を取ることはしない。いやそもそもピースサインは国よっては相手を見下す挑発的な意味合いもあってだな…」
「……」
熱く討論が始まって数十分。
事態は収束することなくカタストロフィへ向かっていた。
元々は文化祭での出し物をみんなで考えようという話だったはずだ。
それをハルが仕切り意見の出しあいになったまではよかったが、気づけば自分の趣味の押し付け合い大会になっていた。
最早女子達は我関せずを貫き女子トークで盛り上がっている。
我らがオタク男子達は自らの悲願を成就させんとあらんかぎりの知識と理想を醜く語らっている。
しかしその熱意は伝わらない。
必死になって語れば語るほど女子達は離れていくのだ。
これが自明の理であることを彼らは知らない。
だから故のオタク。
伊達に煙たがられていない。
ついでにいつもは大人しいやつがこういう席だけハッスルするのも女子から冷たい目で見られるので注意が必要だったりする。
俺はというと、完全に乗り遅れてしまったので議論しているのを黙って聞いていることしか出来ないでいた。
ていうか決まらんぞ、コレ。
「おい、ハル」
「ん?」
議長を務めるハルに近づく。
全員の意見にしっかり耳を傾けていたようだ。
こいつのこういうところはすごいと思う。
内容がアレだから尊敬はできんが。
「決まらねーぞコレ。このままだと放課後居残りコースじゃねえか」
「あー、そうだな」
事態の深刻さを理解したのか、すぐさま立ち上がった。
「おい!野郎ども!」
演説が始まるようだった。
しっかりと教育が行き届いているようで、ハルが一声あげた時点でシンと静まり返る。
「お前らの気持ちはよーくわかった。だが、現実的に全てを取り入れることはできない。
そこでだ」
紙になにやら書き込む。
「あみだで決めよう」
面倒くさいだけのようだった。
「さんせー」
最早関与する気ゼロの女子がそれを是とした。
放課後の自由な時間のために。
紆余曲折あったが、最終的には厳正なるあみだくじでの決定により
我が2-3クラスではクレープ屋をすることに決まった。
まだ何か言い足り無さそうなオタク男子共はたくさんいたが、比較的男女どちらにも負担が少なく、また誰の性癖にも触れない最も健全な出し物である。
途中までひどく不安そうな面持ちで成り行きを見守っていた担当教師も心なしか安らかな表情になっていたようだった。
文化祭談合も無事終え、そのまま帰りのHRに突入する。
「えー明日から文化祭の準備で大変になりますが、何度も言うようですがあまり帰りが遅くならないように、効率よく準備を進めてください。
また、今日から自然公園が立ち入り禁止になったようですので気をつけてください」
はーい。無気力な生徒たちの声が上がる。
そんな中、薄れゆく記憶の中で昨日の夢と件の公園が同じ名称だったことに気づいた。
天宮町自然公園。
手のかかったプレートが頭をよぎる。
嫌な予感は、なかなか消えてくれそうになかった。
ーーー。
「お、ハル」
帰りのHRが終わった後、何人かで集まり始めたハルを呼び止める。
「なんだ?」
昨日の帰りにハル達が校内で集まって良からぬ話をしているというのを葵から聞いていたのがずっと気がかりだった。
昨日の夢も件もあるし、看過しておくわけにはいかない。
友達として。
「お前なんか企んでるだろ」
ズバリ。
証拠なんかないが、コイツとの付き合いは長い。
話してくれるはずだ。
「……」
心配しすぎかもしれないが最近色々と良くないことが起こっている…気がする。
コイツを犠牲にはしたくない。
「わかった。まあ、元々お前にも話す予定だったしな」
ちょっと、と集団を離れる。
人通りの少ない踊り場に連れてこられた。
「実は、俺のダチなんだがな」
おもむろに話し始めるハル。
どんな恐ろしいことがあるのか。
固唾を呑むとはこういうことか。
「やられたんだ…。2-2のやつに」
やられ…!え、2-2?
「元は協力関係にあったんだが、急に裏切りやがってよお。
2-1の我が校のアイドルの情報もあっちが持ってんだよ。そこで今回2-2のやつを陥れてやろうと…ってオイ!」
話の途中のようだが、用は済んだので帰ることにする。
「待てって!お前に手伝ってもらえば事は確実なんだよ」
「いえ、結構です」
入学式の二の舞いになるのは目に見えてる。
人をまとめるのはうまいが、大規模作戦の指揮を取るのは下手だと割れてるからなコイツは。
あー心配して損した。
やっぱアホはアホだわ。
ーーー。
「兄さん、遅いです」
ふくれっ面の妹が中庭のベンチに座っていた。
「悪い。ちょっとハルのせいで遅れた。ハルのせいで」
「遅くなるなら連絡くらいしてください」
つんけんしている。
悪いのは俺だが、たまにこういういつもと違う一面を見れるのは正直楽しかったりする。
「…なんです」
ジト目だった。
おっと、またもや顔にでてたかな。
「おっと、またもや顔にでてたかな」
「ていうか声に出してます」
……。
あれ、もしかして俺って隠し事できない体質?
ん、ていうか。
「瑞希は?」
そういえば見当たらない。
「今日は夕飯当番だから、って」
ああ。
タイムセールか。
そんなに遅くなっちゃってんだな。
「すまんな」
「んー、いいですよ」
簡単に許してくれた。
心なしかご機嫌のようだ。
「さ、早く帰らないと」
言いながらお腹に手を当てる。
確かにお腹は空いた。
瑞希には合鍵を預けてあるから、今頃調理中か、出来上がっている頃か。
「そうだな」
久々の兄妹二人だけでの下校は、夕飯のことで頭がいっぱいだった。




