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団欒、リビングにて

無事空になった特大サイズの鍋(瑞希の分が入る時はこれが並盛り)や食器を流し場でやっつける。

瑞希と一緒に飯を食うと毎回デカい食器を扱うため、ラージサイズの取り扱いはかなり手慣れてきた。

ぶっちゃけ飲食店の厨房に入ってもやっていける自信すらある。

まだバイトをしたことはないが、やるなら飲食店のほうが性に合ってる気はするな。


なんていうかこう、大衆的な食堂とか良いよね。

レストランみたいに気を遣うようなとこなんかじゃなくて。

気楽にサラリーマンとかが仕事帰りにきて愚痴だのなんだの喋ったりしてて。

常連さんとは仲良くなっちゃって色々面白い話聞いたりさ。


そんな、なんでもない、平和な日常こそが、特別だ。


ん、てかいつからだっけな。

こんなサイズの食器がうちにあるのって…。


「ね、楓~」


ふと居間からお呼びがかかる。


「なんだよ?」


洗い物中はボーッとしつつ何か考えてることが多いからか、周りのことはあまり入ってこない。

テレビも基本ついていて、洗い物をしながらでも一応見えるレイアウトにあるのだが。


というかテレビ自体あんまり見ないか、どっちにしろ。

好き嫌いというよりは、相性?

なんかじっとして誰かの話をひたすら聞くのって授業じみてて。

いや、どうなんだろう。

実際言葉には出来ない。なんとなくだ。なんとなく。


ただ葵は真性のテレビっ子であるため世の中の情報ソースはほとんど葵だ。

しかもどうでもいいことと大事なことをしっかりと分けて教えてくれるスグレモノ。


「聞いてなかったのー?」


流し台横のちょっとしたスペースに食器の残りを持ってきてくれる瑞希。

このスペースは主に食前食後に食器たちの踊り場として大活躍している。


「だから、文化祭。葵ちゃんのクラスは軽食なんだって。喫茶店かな?てことはメイド!?」


いきなり噴火するかのごとくハイテンション。

沸点の低い奴…。


「メイドはわかんないけど…喫茶店みたいな感じだと思う」


無表情でテレビを見つめたまま返答する葵。

こういう時の葵は大体2パターンある。


何かに集中してて、心ここにあらずといった具合にとりあえず返事を寄越す場合と、

全く興味がなく嫌味を寄越す場合。


まあこのメンツだし前者だろうが。


何が言いたいかと言うと、俺がわかるってことは瑞希もわかるってことで…。

瑞希に目を向ける。


にんまりと口を三日月型にしていた。

うん、怪しいな。

何か思いついた顔だ。


「喫茶店ってことは、正装で臨まないとね!メイド服、チャイナ服、あとはーバニーちゃんかな?」


「正装…そうだね。そうかも」


一切テレビから視線を逸らさず答える。

はめられてるとの知らず。


「じゃあ文化祭に3人で写真撮ろうね!葵ちゃんは正装でね。約束~」


決まったな。


「あ…うん。わかった。…ん?」


CMに入った段階で集中が切れたのか帰ってきたようだ。


「ごめん、なんだっけ。約束?」


首を傾げる詐欺被害者。もとい、隙をつかれた我が妹。

瑞希はというと、


「うん~葵ちゃんが文化祭でバニーちゃんで、3人で写真なの」


ご満悦の表情だった。


「ばにい?」


綺麗に45度傾く首。

両手でそのマシュマロのような頬を挟み込み、傾いだ角度を元に戻す。


至近距離で見つめ合う二人。

ってなんだこの絵図は。


瑞希の真摯な表情が緩む。


「や・く・そ・く。楽しみだなあ、葵たんのバニー服」


もはや歪んでいた。


…だらしなく、締まりのない顔に。

つか、たん付けしてんじゃねえ。


その昇天しかけた表情を見て悟ったようだった。

一気に紅潮する葵の顔。

見ていて心配になるほどに。


「なっ、なな、なななな」


あわあわする葵。

あわわわかな?

そんな擬音が似合うほどに狼狽えている。

クールな我が妹にしては珍しい。


バニーと葵の狼狽具合による相乗効果か、ヒートアップした瑞希は気づけば葵の頭を抱きかかえて奇声を発していた。


やれやれ…。


収集つかないなこりゃ。

俺がこの場を納めよう。


「葵、瑞希」


交互に訴えるような視線を送る。

呼びかける声には優しさと、ほんの少しの非難の念を込めて。


この場での自分の立場、役割、そして自分の本質を思い知った。


俺は…


「俺はスク水派か、なっ!?」


おかしいな。椅子に座ってたのに奇妙な浮遊感が…。

目の前の葵が一瞬ブレたかと思ったらいつのまにか床に伏していた。


「お兄ちゃん。よく聞こえなかったけど、なんて?」


ゴミを見る目!兄貴を見る目じゃない!

鳩尾に圧迫感を感じる。

どうやらボディブローをもらったらしい。神速の。


「うーんスク水はちょっとね~」


ないわーと言わんばかりにお手上げする瑞希。

くっ、裏切ったなこいつ…!

俺のシスコンさを利用しやがって!


ケラケタ笑う瑞希と葵に踏まれる俺。

とうにテレビではCMが終わり、ニュースが流れていた。


今日も我が家は元気です。


…そろそろ近所から苦情くるかな。


……


…


「続いてのニュースです。鳴田町では行方不明者が相次ぎ、事件性を疑われています。

被害者は…」


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