昼食、中庭にて
「お腹すいたぁ~」
3時間目の終了を知らせるチャイムがなるやいなや、空腹の子犬が俺の机に伏していた。
いつもより消耗が激しいと思ったら、そういや今日は一発目から数学だったな。
「あ、弁当は葵だぞ。いくか」
「はいぃ」
昼食は基本的に葵と瑞希の3人で取ることが多い。
ちなみに、弁当係は交代制になっていて、今日は葵弁当。
男のくせにって言われそうだから人にはあまり言わないが、俺も料理は苦手じゃない。
「はるる~ご飯食べないの~」
「おう。俺は今日学食。すまんね」
ほれ、と5百円玉を掲げるハル。
「ほほー今日は豪華にいくのかね」
うちの学食メニューは比較的安価に設定されている。
なんでも、学校関係者に料亭を持っている人がいて安く卸してもらってるんだとかなんとか。
そのため安いものは安い。ちょっと頑張れば学食とは思えないクオリティのランチになる。
5百円と言ったらフルコース一歩手前ってレベルだ。
「へっへ~まあそんなとこよ。それにちっと野暮用もあるからさ」
チラっと隣の男子生徒を目線だけで盗み見るハル。
こいつはこういうとこで変に巧い。
おそらくは相談事かなんかだろう。
変態的な部分で完全に埋もれているが、実は面倒見の良い兄貴肌でもある。
今の目配せは本人には気づかせず俺たちにだけ事の始終を伝えるための気遣いだ。
そんじゃ、とっとと退散しますかね。
「新作メニューの感想、後で聞かせろよ」
「おう。そりゃもうグルメレポーターばりに」
ぐっと眩しい笑顔でサムズアップ。
うん。通じあってる。気がする。
「えっ、新作メニュー!?いいなあ。どんなのー?」
…。
そして通じていない飢えた子犬が一匹。
瑞希は割と空気は読める体質なんだが、ハルが関わっている時と空腹時は残念な子だ。
「ねえねえ、新作メニューなにかな?いい響きだよねー」
目の輝き方が尋常じゃない。
指を絡めて礼拝のモーションに入っている。
…その首根っこをはっしと掴む。
「…そんじゃ、また後でな」
微動だにしない瑞希を引きずりつつ、教室を後にする。
…流石に苦笑いを隠し切れないハルを背中に感じながら。
葵の教室はここ2年生の教室などがある東館からすると別棟になる。
西館の実習室、職員室と並び1年生の教室は2階に位置している。
廊下で待っていた葵を連れていつもの中庭のベンチへ。
天気がいい日はやっぱりここに限る。
「はうっ!あ、お弁当!あ、中庭!いい天気!」
礼拝が終わったのか、現実に帰ってくる瑞希。
「今日は来るの遅いと思ったら、瑞希ちゃんがアレだったんだね」
「ああ、すまんな。アレだ」
全てを悟っていたかのうように静かにタコさんウインナーを口に頬張る我が妹。
俺も同じくタコさんを頂く。
「え、アレってどれ?」
ただ一人事態を理解できていないままタコさんを食す。
不思議そうな表情をしていた割に食べだしたら幸せそうな顔に。
なんて単純。
ちなみにタコさんウインナーは今日の弁当当番の葵のトレードマーク。
全体的に色彩も豊かで、見ていて楽しいTHE・弁当って感じだ。
うんうん、兄として鼻が高い。
「どこに出しても恥ずかしくないな」
「ん?なにが?」
箸を止め怪訝そうにする葵。
おっと。声に出ていたようだ。
「何でもない。葵のこと」
「…??」
余計にわからない、とばかりに首を傾げる。
いやまあ、そうですよね。
とは言え面と向かって言うのは照れくさい。
黙って食事を続けることにする。
「ごちそうさま!葵ちゃんはいつお嫁さんに行っても大丈夫だね!」
満面の笑みで言い放つ瑞希。
ていうか、言われた…。
「…別に」
そっぽを向き、食べた弁当をそそくさと片付ける。
おー。照れとるな。
「今日の夕飯は、兄さんですからね」
「あー、そうだっけ」
うちでは基本的に弁当以外も交代制で食事を担当している。
とある事情で両親は今はいない。
幸い、生活費は定期的に振り込まれるため困ってはいないが、浪費しないためにも食事くらいは自分たちで作るようにしている。
「帰りスーパー寄ってくか」
無言で頷く葵。
と、同時に予鈴が鳴った。
さーて、4時間目なんだっけな。




