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教室、悪友と

天宮駅は、並杉区天宮町の丁度真ん中に位置する。

流通の拠点としての利用が多くはあるが、電車で数駅我慢すればスクランブル交差点のある若者に人気の街がある。

そのためか、立地は悪くないが都会になりきれなかった。

街興しの一貫として市長がテーマパーク型のビルを開発するも、計画は途中にて頓挫。

愛らしくもどこか畏怖を覚えるマスコットキャラクターが大量に放置されているとかいないとか。


過去に変革の兆しはいくつか見られたものの、この街を言葉で表すなら「若干ごちゃごちゃした住宅街」と言ったところか。


そして夜になると途端に大人しくなる。

遊び盛りの若者は数駅先でハッスルするため、夕方の上り電車はかなり混み合う。


要するに中途半端なのだ。発展具合で見れば。

それを良しとするか悪しとするかはまた別問題。


そんな街の天宮駅へ到着。

時刻は8時19分。

学校は歩道橋を跨いですぐと良好な立地なので、校門まで1分とかからない。

今日も平常運転で学校へ到着できそうだ。


「じゃ、またな葵」


「はい。また」


葵とは学年が一つ違うので下駄箱でとりあえずお別れになる。

がんばるんだよ〜と妹に手を振り続ける瑞希。

お前は親か…


人目がある時の妹はこういうとこ徹底してるから、基本無視。

それを気にせずか気づかずか、こちらに向き直る。


「さ、教室いこー!」


ててて、と早歩きで教室に向かう瑞希。

そうだな、と返事をしつつ2階の我が学び舎を目指して階段へ足を運ぶ。


8時23分。

うん。いつも通りだ。時間は。


微妙に物足りないお腹を擦る。

んーやっぱりチョコクリームトースト、もう一個食べたかったなぁ。


ーーー。


「いよっ、かえで。」


教室に着くなり音量高めの声が響く。


「おーハル。おはよ。」


こちらに向けて挙げられた手に、同様に挨拶を返す。

何が嬉しいのか朝からニカッと体育会系の笑顔全開。


この一見爽やかイケメンなハルこと山下悠斗は、小学校1年生からの付き合いになる。

まさかの11年間同じクラスの皆勤賞中。

最早よくわからない縁で結ばれた悪友と言っても過言ではないだろう。


「はるるん、おっはよー!」


続いて教室に入ってきた瑞希も俺に倣ってか敬礼気味に挨拶。

まあ、ちなみにこの悪友は基本見た目はいいんだが、欠点がいくつかあって…


「いよっす、瑞希。今日も可愛いねぇ」


挙げられた手はそのままに手のひらをグーパーグーパー。

うん、怪しい動きだ。

教室中の女子から軽蔑の眼差しが当てられてるのを感じる。

もちろん俺にじゃない。


なんというかハルは自分の気持ちに忠実で、包み隠さずをモットーにしているような性格だ。

こう言うとこれはこれでなかなか好印象を与えてしまうかもしれないので、ちょっと補足。


主に自分の「下ネタ」心に忠実で、「セクハラ」を包み隠さない。


このことは入学当初、イケメンの一角としてモテ期到来を予感させる人気を博していた彼だが、

当日からこの性格が災いして1日にして全女子からの非難と同時に一部の男子からの支持を得ることになった。


だって、自己紹介ついでにサイズを聞き出し、全校生徒のカップランキングの制作を表明するのは流石にまずい。


当然俺は他人のフリをした。


そもそも、そんなライオンの檻に海パンとゴーグルオンリーでエサやりに行くような無謀なことに興味がないというのがあるが、しかしライオンよりも妹と幼なじみからの粛清のほうがよっぽど恐ろしいというのが本音だ。


ちなみにそのAtoZな女子禁制プロジェクトを意気揚々と敢行した男子どもだが、

当日女子更衣室へ向かってトラトラトラと叫びながら少年のように輝いた瞳で進軍していた。


俺は帰った。


翌日登校すると男子はこぞって席についており、机の間を通行中の女子に怯えていた。


奇襲は失敗したようだった。


この出来事は血の入学式として語り継がれているとかいないとか。


「はるるは今日も嫌われてるね〜」


笑顔で放つ瑞希。

邪気がない分始末が悪い…はずなんだが、一方ハルのほうは傷つくかと思いきや

してやられたとばかりにさも愉快そうに笑っている。


この二人の微妙に噛み合っていない会話を聞いていると

今日も世界は平和だなと感じる。


そうこうしているうちにHRの時間だ。


30余名の出欠確認が終わり、授業が始まる。


1時間目は数学、か。

机の中に手を突っ込む。

2年も学校に通っていると教科書の大きさ、厚みなんかで探し当てることができるようになってきた。


盲牌ならぬ盲書。


まあ、役に立たない上に確率は50%といったところ。

これだ!と言わんばかりにくじ感覚で机から引き抜き、見事正解した時の快感はちょっとしたものだ。


と、そんな他愛のない遊びをしちゃうぐらい学校生活は退屈なわけだよね。


見事2分の1を外ししぶしぶ机を覗き込みお目当ての教科書を抜き取る。


暇とは言ったが、別段勉強自体は嫌いではない。

とは言え、将来の有用性を見出したとか、通知表で低い点数がつくのが怖いとか、勉強に快感を覚えるとかそういうことではない。


ただ、実は計算が得意だったりする。

数学はもちろん、科学なんかも割といける。


昔は勉強全般苦手だったような気がするんだけどなぁ…。

これも多少は大人になってきた証かね。


ふと、なんとなしに横を見る。


体格差はあれど、授業中なわけだからみんな同じような姿勢だ。

いや当たり前なのはわかってる。


しかしなぜか例外が2つ。

うちのクラスに座高が極端に低いやつはいない。

ていうか普通いない。

地を這うようなスタンスで授業を聞いている…わけでもない。


つまりは机に突っ伏しているのだ。


「はあう〜数学は無理ぃ〜」


瑞希だった。

前の生徒の影に隠れながら情けない声をもらしている。

基本なんでもそつなくこなすんだが、なぜか数学だけは苦手。


本人曰く「数字は最悪電卓さんがいるから大丈夫!」とのこと。


まあ実際社会に出たらそうなんだろうけどな。

それを言われちゃ先生の面子丸つぶれだよなあ。


そして、その横で同じように突っ伏しているのはハル。


「zzz」


力尽きていた。


こいつはオールジャンルこのスタンスだからな。

周りももはや気にしていない。


何気なしに見ていると前の席の子が動いた。

あーあれだと先生から見つかりそうだな…。


ま、たまには痛い目にあうのも悪くはないだろう。


黒板を見ると、丁度チョークの動きが止まったところだった。

チョークを溝に置く。

片手で開いた教科書に親指をしおり代わりに挟み、閉じながら腕を脱力させ

だらりと下ろす。


「えーここまでで」


ズレた眼鏡をチョークがつかないよう器用に位置を正す先生。


「なにか」


振り返る。

ここまでか…。


「質問はありますか?」


教室の入り口側から振り返る。

俺とハルの席は窓際。

全体を見渡した時点で完全に寝てるのがバレ…。


ピクッ


!?


不気味な動きで体を捻じ曲げるハル。

テレビで見た南米だか何かの動物を思い出した。

ミーアキャットだったかな。


ってなんじゃそりゃ!


寝てるよな?寝てるんだよな?


そういえばこいつが寝てるの注意されてるってあんま記憶にないが…。

ソナーでもついてんのか。


またひとつ未知に遭遇したな…。


いや、ていうか普通に授業聞けよ。


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